▽ 4-2
『ゴッホの<ひまわり>を落札した鈴木次郎吉氏の会見場に、怪盗キッドが現れました。キッドの目的はまだ不明ですが、逃亡を図ったようです』
アナウンサーがそう言うと、画面が切り替わり一枚の写真が映し出される。
そこに写るのは天井にぶら下がったワイヤーを手にして宙を舞うキッドのような姿。
番組もそれ以上の情報はないらしく、アナウンサーは同じ情報を繰り返すだけだった。
「なんでキッドが<ひまわり>を狙ったんだろうな」
それ以上テレビから情報を得ることは難しいと判断した零くんが、乗り出していた体をソファに預けながら呟いた。
そうなのだ。キッドは宝石しか狙わない。なのになんで絵画を・・・・・・。
頭に浮かんだのは、快斗くんのあの人懐っこい笑顔。彼が意味もなくこんなことをするとは思えなかった。
「なまえ?大丈夫か?」
黙ったままの私を心配したのか、零くんが顔をのぞき込みながら声をかけてくれた。
「・・・・・・っ、大丈夫!びっくりしただけ!園子ちゃん達は大丈夫かな?」
キッドが誰かを傷つけることはないと知っているけれど、あの会場にいた彼女が心配だ。
「周りには警備の人間もいただろうし、大丈夫だろ」
私を安心させるようにそう言ってくれる零くん。
「そっか、うん、そうだよね。びっくりしちゃったね」
これ以上心配をかけないように笑顔を作る。
そんな私の心の内を知ってか知らずか、ぽんぽんと軽く頭を撫でるといつの間にか空になっていた私のマグカップを手に取り、「紅茶いれてくる」と零くんはキッチンへと向かった。
*
翌日、私はテレビのニュースで2501便の爆発、そして緊急着陸を知った。その飛行機には園子ちゃんが乗っていたわけで、いてもたってもいられず彼女に連絡するとみんな無事との返事が返ってきて一安心した。
けれどその飛行機に新一くんが乗っていた話や、キッドが機内から<ひまわり>を盗もうとしたという話を彼女から聞いて頭の中は疑問でいっぱいだった。
きっと飛行機に乗っていた新一くんは、キッドだろう。快斗くんと新一くんの顔はよく似ている。誰よりも変装しやすい相手だろう。
けれどどうしても理解できないことがひとつ。キッドが・・・・・・、快斗くんが、飛行機を爆破するなんてそんな危険なことをするだろうか。
自分だけではなく、周りの人間にまで危険が及ぶ。そんな選択をはたして彼がするんだろうか。
あのポアロでの再会から彼に会うことはなかった。
連絡先も知らないので、こちらから連絡をとれるわけでもないし住んでる場所もわからない。
江古田高校の周りに行ってみようかなとも考えたが、今はあいにく夏休み。それに快斗くんに会ったところで、キッドの話ができるわけない。
結局どんなに考えても今のわたしにできることはなくて、時間だけが過ぎていくのだった。
prev /
next