▽ 11-2
Another side(1/2)
赤井がなまえを抱きかかえてを出た後、残されたのは俺とコナン君。
なんと声をかけるべきか悩んでいるコナン君に、大丈夫だと言葉をかけなければとわかっているのにうまく頭がまわらなかった。
バン!と扉が開く音がして、入口に視線を向けるとそこには慌てて走り込んできた梓さんがいた。
「安室さん!今沖矢さんがなまえさんのこと連れて行っちゃったけど、どういう事なんですか!お店のことはいいから、今は彼女についててあげなきゃ!・・・って、その顔どうしたの?!」
悪気のない梓さんの言葉が胸に刺さる。俺の顔の傷を見た彼女は、状況が呑み込めず目を丸くした。
「・・・・・・後で様子を見に行きますよ。それにこれは大丈夫です。まだお客さんもいるし、仕事に戻りましょう」
「・・・っ、でも!」
「コナン君も店に戻ろうか。驚かせたお詫びに何か美味しいのでも作るよ」
食い下がろうとした梓さんを交わしてコナン君に笑顔を向ける。動揺を隠しきれない彼の表情を見る限り、今の俺はあまり上手く笑えていないのかもしれない。
ポーカーフェイスが聞いて呆れるな。
呆れたような笑みが自然とこぼれた。
*
溜まった仕事は待ってくれない。
ポアロでの仕事を終えたあと、警察庁に向かい風見から受けとった資料に目を通す。
あの感情の機微に疎い風見にすら、「体調悪いんですか?」と心配されるのだから自分の脆さに呆れてしまう。
仕事が一段落し、警察庁を出る頃には辺りは真っ暗になっていた。
何も考えずに車を走らせていると、見えてきたマンション。無意識のうちにいつも通るなまえの家への道を辿っていたらしい。
「・・・はっ、馬鹿だな、俺も」
見慣れたマンションの前に車を停めながら彼女の部屋の窓を見上げる。
あそこに彼女がいるかどうかすら分からない今、俺はここで何をしているんだろうか。
今のなまえの隣にはあの男がいるんだろうか。
そう考えると、ぶつけようのない怒りと悔しさが胸を覆う。
「ふざけるのも大概にしろ。なまえが君より俺についててほしいだと?この子が本当にそう言うと思うのか?本気でそう言っているなら、遠慮なくもらっていくぞ」あの時の赤井の言葉が頭のなかで木霊する。
誰がどう見てもあの状況でなまえが望んだのはあいつの手だったじゃないか。
ぐっと奥歯を噛み締める。
「俺はなまえが君の隣で笑っていられるなら、何も言うつもりはない。けどこいつが傷付くなら話は別だ。今までのように見守ることはできない」あいつがなまえを特別に思っていたことはずっと前から気付いていた。
あの男は誰にでも無条件に優しい聖人じゃない。なまえへの優しさは、きっと自身の好意からくるもの。そんなのはなまえを見るあいつの目を見れば一目瞭然だった。
それでもなまえは俺を選んでくれた。
けどそれは彼女が赤井の気持ちを知らない世界線での答えだ。
もしあいつの気持ちを知ったらなまえはどう思うんだろうか。
・・・・・・その時もまだ俺を選んでくれるんだろうか。
トンっとハンドルにもたれながらため息をつく。
なまえのことが心配な気持ち。赤井に対する怒りや嫉妬。自分自身の弱さに対する情けなさ。色んな感情がせめぎあう。
そんな中でもやはり一番気がかりだったのは、過呼吸を起こし気を失ったなまえのことだった。
赤井が彼女を放っておくとは思えないが、万が一部屋で一人で倒れていたらどうするのか。そんな情景が頭を過り、俺は車を降りた。
赤井が彼女の部屋にいたら帰ればいい。
彼女が部屋にいないなら、それはあの男の家にいるということ。
どちらにしても、もうこれ以上傷付きようがない。腹を括った俺はなまえの部屋へと向かった。
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