▽ 10-5
零くんがコナン君と私のデザートを持ってキッチンから出てくると、その女性は大きな声で彼の名前を呼んだ。
私達の所にデザートを置くと、笑顔で彼女の元に行く零くん。
相手はお客さんだ。
邪険に扱うことなんてできないし、彼が笑顔で彼女に接することも理解出来る。
「なまえお姉さん?顔色悪いけど大丈夫?」
コナン君が心配そうに私の顔を覗いた。
大丈夫だよ、そう返してあげたいのに上手く言葉が紡げない。
何故だろう、紅茶のカップを持つ手が僅かに震える。
彼女の手が零くんの腕に触れたその時、あの日の光景がフラッシュバックした。
そうか。さっきの嫌な汗は、きっと彼女の派手な身なりがあの日の女性に重なって見えたから。
そして今も手が震えるのは、彼女の腕が零くんに絡むことを許せないあの日の自分がいるから。
ガチャン!!!
気が付くと私は手に持っていたカップを落としていた。
店の中の人の視線が私に集まる。
もちろんそれは零くんとその女性も同様だ。
零くんの腕に自分の腕を絡めたままこちらを見るその女性と視線が交わる。
それはあの日から何度も夢で見た光景だった。
「・・・・・・っ、・・・ごほっ!!・・・っ・・・」
割れたカップを拾わなきゃとか、梓さんに謝らなきゃとか、そんなことを考えているのに、身体が上手く言うことを聞いてれない。
何かに心臓と喉を抑えられたかのように上手く呼吸ができない。
咳き込みながら、口元を抑える私を見て、零くんが慌ててこちらにやってくるのが目の端で見えた。
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