▽ 8-26
Another side
廊下を進んでパーティ会場に出ると、俺とコナン君は舞台への階段を上がる。
カーテンをめくり舞台に入ると、そこにはひとつの影があった。
その影は暗闇の中で舞台の中央に掲げられた絵をじっと見つめている。
「やっぱりここに残っていたんだね」
その影にコナン君は近付き声をかける。
「君はたしか・・・」
「江戸川コナン、探偵さ」
如月峰水はピクリと左の眉を動かした。
コナン君が彼に自身の推理を話している間、俺は少し後ろでそれを見守っていた。
彼がコナン君に危害を加えようとすれば、すぐに近づくことの出来るギリギリの間合い。
彼の動機は愛してやまない富士山をこのビルによって真っ二つにされたことに対しての恨み。
常盤さん殺害の証拠である真珠のネックレスの隠し場所を、コナン君に言い当てられた彼は諦めたかのようにふっと笑った。
「ネックレスの証拠を見つけられた以上、もはや言い逃れはできんな」
そう言うと彼は羽織の袖から小さな瓶を取り出すと、瓶の蓋を開け口元へとそれを近付けた。
「!?」
コナン君が動こうとしたそれよりも僅かに早く、俺は彼の手からその瓶を奪った。
そしてそのまま彼の首裏を強めに叩く。
力をなくした彼は、そのままストンと崩れ落ちそうになり、それを右腕で支えた。
老人相手に申し訳ない気もしたが、そんなことを言っている場合じゃない。
「屋上に行って人を呼んでくるからそれまでこの人とここで待っていてくれるかい?まだここには火は回ってきてないようだし」
如月峰水を抱え、近くにあった壁に寄りかけ座らせるとそのまま立ち上がりコナン君の方を見た。
「うん。なまえお姉さんも心配だし、安室さんは屋上の様子を見てきて!」
「ありがとう」
俺はそのまま舞台から飛び降りると屋上へ続く階段を駆け上がった。
屋上に続く扉を開くと、ちょうどヘリポートの真ん中にいるなまえを見つけた。そしてその真上にはホバリングしながら降下しているヘリコプターの姿。
ほっと安堵の息をつく。
降下してくるヘリコプターを見たなまえはヘリポートの隅へと移動する。俺もそんな彼女の近くへ行く。
「零くん!コナン君は大丈夫?」
「あぁ。コナン君は無事だし、犯人もちゃんと捕まえたよ」
「よかった・・・」
あとはここから脱出するだけ。
ヘリコプターが着陸しようとしたその時・・・、
突然、屋上の隅で爆発がおきた。
ドォォォン!とけたたましい爆発音が続けざまに屋上に響く。
爆風が辺りをつつむと、その風で飛んできた石油缶がガソリンを撒き散らしながらヘリポートに落ちた。
あっという間に床に落ちたガソリンに火がつき、炎はヘリポート一面に広がる。
ヘリコプターも炎から逃れるため、一気に急上昇する。
「っ!走れ!!!」
俺は隣にいたなまえの腕を引き、そのまま屋上の出入口へと走り込んだ。
「・・・はぁ、はぁ。なんでまた爆発が・・・」
非常階段を降りると、なまえが肩で息をしながらそう呟く。
「とりあえず七十五階のパーティ会場に戻ろう。まだあそこは火が回ってない」
そう言いながらも嫌な予感がした。
屋上に石油缶なんて普通置いてあるわけがない。
あれは組織が屋上からの脱出を阻止するために仕組んだものだろう。
だとしたらやすやすとヘリポートの鎮火を待つ時間なんてあるんだろうか。
もしかしたらパーティ会場にも・・・・・・。
七十五階の扉を開き中に入ると、コナン君が駆け寄ってくる。
「二人とも大丈夫?!さっきの爆発音は?!」
「屋上に爆弾が仕掛けられていたんだ。あの様子が鎮火するまでヘリでの救助は無理だ」
「・・・っ、そんな・・・」
コナン君の焦った姿が不安を煽る。
「とりあえずここで火が消えるのを待つしかないってことだよね?」
なまえの問いかけに、コナン君は小さく首を振った。
「そんな時間はないみたいなんだ」
そう言うとコナン君はテーブルの近くに行き、テーブルクロスを捲りあげた。
すると、テーブルの裏に四角い粘土のようなものが起爆装置と共にガムテープで止められていた。
「・・・・・・やっぱりここにも爆弾を仕掛けていたのか」
「全てのテーブルに仕掛けられてるみたいなんだ。安室さん、これ解体できる?」
近くにあったテーブルのクロスを捲り、爆弾を覗き込む。
仕掛け自体はそんなに難しいものではない。けれど数が多すぎる。
「できるだろうが、数が多すぎる。タイマーは?」
「あそこにあったよ。残り時間は・・・・・・」
コナン君はテーブルから離れ、バーカウンターへと近付く。
棚に並べられた洋酒の瓶の間にタイマー付きのプラスチック爆弾があり、タイマーの数字が四分十秒から九に変わる。
「・・・っ、クソ!残り四分しかないのか!」
「きっと最後にこのパーティ会場を爆破して、何が狙いか分からなくするつもりだったんだよね」
組織の奴らの考えそうな事だ。
さすがに残り四分でこの爆弾全てを解体するのは無理だ。
その時、B棟側の窓から強烈な光が放たれた。窓に駆け寄ると、B棟の屋上に数台の投光機が置かれこちらを照らしていた。
B棟の屋上から消防隊がA棟に向けて放水を行うがそれは届くことはない。
「・・・・・・零くん」
隣にいたなまえが小さな声で俺の名前を呼び、そっと腕を掴んでくる。
そうだ。
こんな所でこいつを死なせるわけにいかないんだ。
何かあるはずだ、ここから脱出する方法が・・・っ。
「そうだ・・・!!」
じっとB棟の屋上を見ていたコナン君が弾かれたように走り出した。
彼が向かったのは、展示されていたマスタングの元だった。
「安室さん!鍵はついてる!!」
「・・・・・・っ・・・!その手があったか!」
彼の思惑を察した俺は、携帯を取りだし毛利さんへと電話をかけB棟屋上のドームを開けてもらうように頼む。
「けど安室さん、このパーティ会場の広さだと向こうに飛び移るにはスピードが足りないよね・・・」
コナン君の言う通り、向こうに飛び移るには百キロ以上は出さなければいけない。
せいぜいこの広さで出せるのは六十キロちょっとだろう。
ならば一か八か・・・・・・、
「爆発と同時に向こうに飛べたら、ギリギリいけるかもしれない」
「っ!」
「どちらにしてもここにいたら死ぬんだ。一か八かやってみよう」
百パーセントの保証なんてない。
けれどそれにかけるしか方法はなかった。
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