▽ 8-22
Another side
なまえさんを心配して連絡橋のそばを離れようとしなかった蘭や園子は、消防隊員の人になかば強引に地上へと運ばれた。黒煙に包まれたA棟はこちらからはうまく見えなくて、消防隊員はなまえさんの救助よりオレ達の避難を優先したのだ。
他の女性客らと共にビル前に避難すると、オレは周りを見回し阿笠博士を探した。
「博士!目暮警部はどこだ?!それにあの人は?!」
「すまん、途中で見失ってしまった。目暮警部ならあそこじゃよ」
博士は近くの人集りの真ん中にいた目暮警部を指さした。
目暮警部の隣にはおっちゃんもいて、オレは大人の足元をくぐり抜け彼らを呼んだ。
「おじさん!警部さん!なまえお姉さんがA棟に取り残されてるんだ!!早く助けを呼んで!」
おっちゃんのズボンの裾を引きながらそう叫ぶと、二人はギョッとした顔でこちらを見た。
「何?!あそこにまだ人が残ってるのか?!」
目暮警部はそのまま視線をビルに向ける。
「お父さん!なまえさんコナン君のことをかばってくれたの。早く救助隊の人を向かわせてあげて!」
オレ達を見つけこちらに走ってきた蘭がおっちゃんの腕を掴む。
後ろからきた園子も泣きそうな顔で目暮警部を見た。
「警部殿!すぐに救助を!!・・・・・・っ、こんな時に安室の奴は何処をほっつき歩いてんだ!」
歯がゆそうにそう言ったおっちゃんは辺りをキョロキョロと見回した。
「・・・・・・っ?!安室さんいないの?」
「あぁ、途中までは近くにいたんだが気が付いたら姿が見当たらねぇんだよ」
まさか・・・っ!
おっちゃんの言葉に、エレベーター前での彼との会話を思い出し四十階のコンピュータ室のあるフロアを見上げた。
「・・・・・・っ、クソ!!!」
オレはおっちゃんから車のキーを借りて駐車場へと向かった。そして車のシートに置いてあったスケボーを取り、B棟に入ってエレベーターに乗る。
六十階のエレベーターホールは、爆発で飛んできた椅子や備品が散乱していた。
亀裂があちこちに入った廊下を走って連絡橋ホールに向かうと、二人の消防隊員が立っていた。
「おじさん!ライト借りるよ!」
消防隊員の手からライトを取ると、床にスケボーを放り投げそれに飛び乗った。そして左足でターボエンジンのスイッチを押す。
キーンと鋭いエンジン音を上げると共に、スケボーの周りの空気が大きく渦を巻く。
消防隊員が驚いて身を引いたと同時に、スケボーは爆煙を上げて急発進した。
そしてそのまま連絡橋へと突っ込んだ。
安室さんはきっと四十階のコンピュータ室に向かったはず。
彼が爆発に巻き込まれるなんてヘマをするとは思えない。けれど彼はなまえさんがA棟に残されていることは知らないはずだ。
「なまえのことよろしく頼むよ、名探偵君」 あの時の安室さんの言葉が頭をよぎる。
オレを庇ったせいでA棟に残されたなまえさん。
そんな彼女をこのまま放っておけるはずがなかった。
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