続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 8-17



『地下四階の電気室と発電機室、そして四十階のコンピュータ室が爆発した』


そんな現実離れした風間さんの言葉に、目の前がくらりと歪む。それでも私がこうして立っていられるのは、腕を支えてくれている零くんの力の強さと体温のおかげだろう。


「警部さん、すぐに避難した方がいいようです!」

電話を切った風間さんが目暮警部に視線をやる。


「電気室と発電機室が爆発したってことは、非常電源もやられてますね」

白鳥警部の言葉に高木刑事はギョっとし、目暮警部は風間さんにエレベーターが動くかを尋ねる。


険しい顔で首を横に振った風間さんだが、何かを思い出したかのようにはっと顔を上げた。


「展望エレベーターなら動くかもしれない!」
「ホントですか?!」
「VIPの避難用に別電源にしてあるんです!」


そう言いながら展望エレベーターに向かった彼は、扉の横にある下ボタンを押した。するとボタンが光り、エレベーターの扉が開く。


真っ暗な会場にエレベーター内部の灯りが差し込んできて、招待客達は安堵の声を漏らした。


エレベーターの定員は九人。

全員を運ぶには時間がかかりすぎる。


目暮警部の指示で老人や女性、子供はエレベーター。男性は非常階段で六十階まで降りて連絡橋を渡ってB棟に避難することが決まる。


その指示の元、高木刑事や白鳥警部が招待客達の誘導を始めた。


順にエレベーターに乗っていく女性や子供達。少し前までたくさんの人で溢れていたパーティ会場だったが、残された人はいつの間にか私達や目暮警部達、そしてTOKIWAの関係者だけになっていた。


そんな彼らを見ていると、隣に立っていた零くんが残っている人々から少し離れた場所まで私の腕を引いた。



周りに人がいないことを確認すると、零くんは口を開いた。


「次のエレベーターで女性客や子供は最後だ。なまえも蘭さん達とそれに乗ってくれ」
「うん、わかった。零くんも目暮警部達と階段で避難するよね?」


掴まれたままの腕から伝わる彼の体温。いつもと変わらず安心感を与えてくれるのに、何かを決意したかのような彼の視線が私を不安にさせた。


嫌な予感がしたんだ。



その予感は彼の次の言葉によって現実のものになる。




「・・・・・・一度コンピュータ室の様子を見てくる。その後ちゃんと避難するからなまえは心配しなくていい」
「っ!コンピュータ室はさっき爆発したって・・・!」


思わず彼に詰寄り、今度は反対に私が彼の腕を掴んだ。

そんな私にたじろぐこともなく、彼は私の手をそっと握った。


「原さんが組織のデータをTOKIWAのコンピュータに転送した可能性がある。どの程度の爆発かわからないが、何かわかることがあるかもしれないんだ」
「・・・・・・っ・・・」
「もうなまえも分かってるだろ?この爆発は組織が仕組んだものだ。こんなに大勢の招待客全員を巻き込むとは思えない。狙いがTOKIWAのコンピュータなら皆と一緒に避難すればきっと大丈夫だ」


私が不安に思ってるのは、自分がちゃんと避難できるかなんてことじゃない。


目の前のこの人がこのままどこかに消えてしまいそうで、不安が消えてくれないのだ。



けれど・・・・・・。




「・・・・・・・・・わかった。絶対ちゃんと避難してね・・・?」



いつもの優しい零くんの表情じゃない。


降谷零としての信念を持つ彼の瞳。


そんな瞳の彼を私の感情ひとつで止められるわけがなかった。




「あぁ。約束するよ。・・・・・・ありがとう」


ありがとう。そう言った彼は私の心の中の不安もきっと見抜いていたんだろう。

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