▽ 8-14
ステージの周りでそれぞれに数を数える人達を見る。子供達も参加しているようで、真剣な顔をして旗を握りしめていた。
しばらくするとゲームの参加者達が次々と旗を上げ始める。
その時、一際大きな声で「フンギャー!」と赤ちゃんの泣き声がフロアに響く。そしてそれと同時に旗を上げた男性が一人。
「そこの青の方!おめでとうございます、ピタリ賞です!」
その男性をを指さしながら常磐さんが告げる。
その青の旗の持ち主は毛利さん。彼自身も驚いた表情で辺りをキョロキョロと見回していた。
「えっ、毛利さん?!」
「あはは、すごいですね」
そんな姿を見て驚きから目をぱっと開く私と、楽しげに笑う零くん。
「ずっとレンタカーだったみたいですし、蘭さん達も喜びそうですね」
拍手でステージに迎えられる彼の姿を見ながら零くんはそう言った。
*
ゲームが終わり再び歓談が始まる。車を当てた喜びを語る毛利さんの話を蘭ちゃん達と聞いていると突然会場の照明が消える。
隣にいた零くんが少しだけ私の近くに寄る気配を感じた。
しばらくするとステージの上に立つ司会者にスポットライトが当てられる。
「皆さん、ここで本日のメインゲスト、我が国が誇る日本画の巨匠、如月峰水先生の作品を紹介したいと思います!」
司会者がB棟側の窓を指さすと大きなスクリーンが下りてくる。
そこに映されるのは如月先生の作品達。どれも富士山をモチーフにしていて、桜や菜の花と共に描かれたものや夕暮れの湖面に映る逆さ富士など様々な美しい姿が見事に描かれている。
「如月先生は富士山をこよなく愛され、三十年以上の長きにわたってその雄姿を描き続けておられます。そして今回、教え子でもある常磐美緒のツインタワーオープンを祝って、新作を寄贈してくださいました。ご紹介します!『春雪の富士』です!」
司会者がステージの中央を示すとカーテンが両側に開き、壁に掛けられた如月先生の作品にスポットライトが当たる。
その瞬間、フロアにいた観客が悲鳴を上げる。
「・・・・・・・・・っ・・・!!!!」
その衝撃に、私自身も喉に何かがつっかえたかのようにうまく声を発することが出来なかった。
ステージ上に掲げられた『春雪の富士』の絵の中央には、真珠のネックレスで首を吊られた常磐さんの変わり果てた姿があった。
悲鳴と動揺が会場を包む中、毛利さんと零くん、そしてコナン君はステージの上へと駆け上がる。
毛利さんの指示で常磐さんが下ろされると同時にステージのカーテンが締まる。
ザワザワとした動揺の声は止まらない。
「大丈夫なのかな」
足元から聞こえた子供達の声で、はっと我に返った私は隣にいた蘭ちゃんや園子ちゃん共に腰をかがめ子供達に視線を合わせた。
「今毛利さん達が見に行ったから皆はここで大人しく待っていようね」
「「「はーい」」」
「皆いい子だね。人が多いし、向こうで座って待っていよっか」
素直に返事をしてくれた子供達の手を引きながら蘭ちゃん達が人混みを抜け、窓際のソファへと彼らを座らせる。
そんな中、哀ちゃんだけがじっと閉ざされたステージのカーテンを見つめていた。
「哀ちゃんも一緒に向こうに行こ?」
その背中がどこか不安げに見えて声をかける。
頭では大人だと分かっていても、つい癖のようなもので子供達にするように手を差し出してしまう。
差し出した私の右手をじっと見つめる彼女。
「・・・あっ、ごめんね」
その視線に思わず手を引っ込める私。
それを何も言わずに見つめる彼女。
「・・・・・・変な人ね」
ぼそっと彼女が呟いた言葉。その言葉の意味はよく分からなかったが、少しだけ彼女が纏う雰囲気が柔らかくなったような気がした。
私の手を取ることはもちろんないけれど、隣を歩きながら子供達の所へと向かってくれる哀ちゃん。
どうか彼女が危険に巻き込まれることがないように。
華やかなパーティ会場は一変して、悲惨な殺人現場へと変わってしまった。
そんな中で身近な人が巻き込まれないことだけを切に願った。
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