続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 8-13



A棟七十五階のパーティ会場には、正装した大勢の招待客が集まっていた。

会場の中央には豪華なフランス料理が並べられ、子供達はその料理に目をキラキラさせている。


そこまでお腹の空いていなかった私は、ウエイターの男性から飲み物だけを貰い会場を見て回る。零くんは毛利さんなにやら談笑中のようだ。


会場の一角に展示してあった真っ赤なボディのオープンカー。そのフロントグリルには馬のエンブレムがついていた。


かっこいい車だなぁと思う反面、零くんが見たら「色が嫌いだ」なんて言いそうでついくすりと笑いがこぼれる。


「どうしたの?なまえお姉さん」

いつの間にか足元にコナン君がいて、私を見上げながら声をかけてくる。


「あ、コナン君。ご飯食べなくていいの?」
「うん、お腹空いてなくて。それよりなんで笑ってたの?」
「あぁ、たいしたことじゃないよ。かっこいい車だなと思ったけど、安室さんが見たら色が嫌だ、とか言いそうだなって思っただけ」
「あはは、たしかに想像できたかも」

乾いた笑い声のコナン君。きっと彼の頭にも私と同じ零くんの姿が思い浮かんだのだろう。


「しかもこれフォードのマスタング・コンバーチブルだしね」

きっとこの車の名前なんだろう。あいにく車に詳しくない私は、コナン君の言葉に首を傾げた。


「赤井さんの車もフォードのマスタングなんだよ。型や色は少し違うけど」

小さな声で説明してくれるコナン君。

なるほど。それはより一層零くんが嫌いそうだ。


「何を見てるんですか?」

後ろから声をかけられ、思わずその声の主にどきりとした。


「えーっと、ボクおじさん達の所に行ってこよっと」
「・・・っ、ちょっとコナン君!」


人混みの隙間をぬって毛利さん達の元へと逃げたコナン君。

ずるい、置いていかれた・・・・・・。


「車を見てたのか?」

二人きりになった私達。

周りの人達は会話に夢中で私達のことは気にも留めていないので、零くんの口調が崩れる。


「あ、うん。かっこいいなーって」
「・・・・・色が嫌いだ」

わざとらしく眉を釣りあげながらそう言った零くん。思わず笑い声がこぼれた。


「ふふっ、そう言うと思ってた」
「・・・・・・それにRX-7の方がかっこいいだろ」

笑われたのが少し照れくさかったのか、視線を外しながらそういう彼。


「安室さんにはあの車が一番似合ってるよ。私もあの車が好き」


正確には、あの車に乗っている零くんがだけど。

なんて心の中で小さく呟いた。





招待客がワインなどを片手に歓談していると、やがて舞台に黒と紫のドレスに身を包んだ常磐さんが現れた。


「皆様、本日は私どもTOKIWAのツインタワーオープンパーティにご臨席くださいまして誠にありがとうございます」

招待客が一様に舞台を振り返ると、彼女は「ここで余興にゲームを行いたいと思います」と微笑んだ。



「ゲームだって。なんだと思う?」

隣にいる零くんに尋ねると、彼は「何だろうな」と首を傾げた。


「私の亡き父、常磐金成の名にちなんで、そして常磐グループ三十周年にあやかって、<時間>それも三十秒を当てるゲームです!」


彼女の言葉に辺りがざわざわと騒がしくなる。


「ぴったり当てられた方、もしくは一番近かった方に・・・・・そちらに展示されているマスタング・コンバーチブルをさプレゼントせて頂きます!」

常磐さんが窓際に展示されている真っ赤な車を指さした。

それと同時にカゴを持ったスタッフがフロアに出てくる。


「ゲームに参加してくださる方は時計をお預けください。後ほど、その時計にぴったりの宝石を添えてお返しします」


宝石なんてすごいなぁなんて思っていると、零くんが声をかけてくる。


「参加するのか?ゲーム」
「ううん、車当っても持て余しちゃうし。安室さんは?」
「趣味じゃないのであの車はいらないですね」

わざとらしくにっこりと笑う彼。


時計と交換で招待客に旗を配っているスタッフに小さく頭を下げ参加を断る私達。


ステージから少し離れた場所でゲームを見守った。

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