置き去りの恋心 | ナノ
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▽ あなたはいつも嘘を言う


歩美達と公園でサッカーをした帰り道。腹が減ったからポアロに行きたいと言う元太の声で、4人で探偵事務所の下まで帰ってきた。


事務所に続く階段の下で、ぽつんと立ち尽くす1人の女の人。夕陽に照らされた彼女の横顔は、血の気が引いていて虚ろな目が気にかかった。



声を掛けると、「大丈夫」だと笑う彼女。


子供に向ける人当たりのいい笑顔。けれど安室さんがポアロから出てきた瞬間、その笑顔が僅かに歪む。



知り合いか?


そう思ったけれど、お互いにそんな素振りは見せない。



店に入ってからも、子供達が話しかければ彼女は笑顔で答えるものの会話が途切れ子供達の意識が自分から逸れるとその笑顔は消える。



電話をすると外に出ようとした彼女を引き止めた安室さん。カウンターに戻った彼女は、そのままその場でどこかに電話をかけ始める。



「あ、すいません。17時からご相談の予約をさせていただいていたみょうじと申します」

「少し予定が入ってしまって・・・。大変申し訳ないのですが、お日にち改めさせていただいてもよろしいですか?お時間作っていただいていたのに本当にごめんなさい・・・」



相談・・・?


電話を切った彼女は、小さくため息をつくとそのまま携帯を鞄にしまう。




「お姉さん、もしかして小五郎のおじさんに用事だったの?」
「・・・え?」
「今の電話、上の探偵事務所にかけてたんじゃないのかなって。さっきも階段の下にいたから」
「あ、うん。少し相談があったんだけど、また今度にしようと思って」


やっぱりおっちゃんの依頼者か。


それならあの思い詰めたみたいな顔も納得がいく。


でも何でわざわざここまで来といて日を改めるんだ?


あんなに思い詰めた顔をするような悩み事なら、彼女だってさっさと解決したいはずだ。



どこか様子のおかしい目の前の女の人。そしてもう1人、いつもと僅かに雰囲気が違う人がいた。




ちらり、と歩美達と話す安室さんに視線を向ける。


いつもと変わらずニコニコ笑っているけど、さっきの彼は様子が変だった。どうにかしてこの女の人をここに引き止めようとしているようにしか見えなくて。


「ボクね、今上の探偵事務所に居候してるんだ!よかったら一緒に今から小五郎のおじさんに相談に行かない?」
「っ、でも・・・」
「せっかくここまで来たんだし!ね、ダメ?」


子供らしく彼女の服の袖を引けば、大きな瞳が左右に揺れる。


きっとこの人は、子供の頼みを断れないタイプだ。わざと上目遣いで見上げると、「じゃあ、少しだけ」と頷いてくれる。



「ヤッター!じゃあこれ飲み終わったら一緒に行こ!」
「でもさっきキャンセルの電話しちゃったのに大丈夫なのかな・・・。もう1回電話した方が・・・」
「平気だよ!この時間は、おじさん何もしてないと思うから」


どうせ競馬新聞読んで、ビール飲んでるに決まってらァ。なんて口にはしないが、心の中で呟く。


「じゃあ僕もご一緒させてもらってもいいかな?」

そんなオレ達の会話を遮ったのは、安室さんだった。


隣に座る彼女の肩がぴくりと跳ねる。


やっぱりこの2人・・・・・・、




「・・・・・・喫茶店の店員さんにそこまでしていただくのは、」
「安室さんもね、探偵なんだよ!今はおじさんに弟子入り中で、よく一緒に事件の捜査とかしてるんだ」
「お邪魔でなければ、後学のためにもぜひご一緒させてください」


オレと安室さんの言葉を聞くと、彼女は少しだけ驚いた表情を見せる。


この状況で断りきれなかったんだろう。しぶしぶだったが、首を縦に振った彼女。



ついてくるとうるさい歩美達をどうにか帰らせ、バイトが終わった安室さんと3人で探偵事務所の階段を上がった。

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