置き去りの恋心 | ナノ
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▽ 霞の幻想


なまえは気付いていなかったけど、朝一緒にマンションを出た時に感じた刺すような視線。


それはきっと気の所為なんかじゃない。


おおごとにはしたくたいと言うなまえの気持ちをなるべく尊重したくて、その場では何も言わなかった。それに怖がらせたくもなかったから。


かといって放っておけるはずもなくて。とりあえず今日は迎えに行って、その後のことはまたその時考えるか、なんて思ってた。




「陣平ちゃん今日の飲み会来んの?」
「あー、今日はパス。適当になんか理由つけといて」
「なんか予定でもあるのか?」


そんなことを考えながら喫煙所で煙草をふかしていると、隣にやって来た萩がポケットからライターを取りだしながら尋ねてくる。



「なまえのこと迎えに行かなきゃいけねェんだよ」


咥えていた煙草に火を点けようとしていた萩の手が止まる。


そういえば昨日のこと、萩に説明してなかったな。


ゆっくりと吐き出した白い煙。灰皿に灰を落としながら、昨日のストーカーのことを萩に話した。


放っておけねェから、しばらく送り迎えしてやるつもりだってことも。


「でもそれだと陣平ちゃんが帰ったあと心配じゃね?」
「そうなんだよな。さすがにまた泊まるのもあれだし、」
「何で?別にいいんじゃねぇの?」


カチッと萩がライターをつける音がした。


いや、よくはないだろ。


だってアイツは零の・・・・・・、



「降谷ちゃんに遠慮してる?」
「っ、」
「昨日あの後さ、降谷ちゃんに聞いたんだよ。なまえちゃんと松田を2人にしてていいの?って」


萩は普段はヘラヘラしてる奴だけど、人一倍周りの人間の顔色を見てる奴だから。俺なんかより人の感情の機微にも聡い。


零がまだなまえのことを好きなことくらい分かっていないはずがないのに。



「もう終わったことだから関係ない≠チて言ってたよ。だから遠慮しなくていいんじゃない?」
「・・・・・・零が本気で言ったんじゃないことくらい、お前だって分かってンだろ」
「本気で思ってなかったとしても、そう思おうとしてるってことじゃないのか?」


いつもみたいに笑うことなく、真剣な眼差しで俺を見る萩。


零のことを1番理解しているのが諸伏であるのと同じように、俺のことを俺以上に分かっているのはきっと萩原だろう。


それくらい俺達はずっと昔から一緒だったから。


「選ぶのは松田だからこれ以上は何も言わなけど、遠慮して優しくしてばっかじゃ欲しいものは手に入らないからな」
「・・・・・・何が言いてぇんだよ。てか俺は別に優しくなんかねェし」
「ははっ、陣平ちゃんは優しいよ。少なくとも俺なんかよりな♪」


短くなった煙草を灰皿に押し付けた萩は、俺の肩を軽く叩くとそのまま喫煙所を出ていった。

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