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▽ 6-7



「────・・・安室さんとの会話で、それを思い出しちゃいました。そのあと外に出たら雨が降ってて・・・。」


母が亡くなった日。

彼に振られた日。


雨にはいい思い出がない。


「だから取り乱しちゃっただけです。本当いつも赤井さんには、かっこ悪いとこ見られちゃって・・・」

そう言いながら笑顔を作る。


「・・・・・・・・・笑うな」
「え?」
「笑いたくないときに、笑う必要はない」

そう言いながら、私の前に来て視線を合わせる彼。


「確かに世の中には絶対はない。でも君が母親や、その彼と過ごした時間すべてが無駄になったわけじゃないだろう?

楽しかったことや、幸せだったこと。全部否定して、自分のことも否定して・・・・・・それで何もなかったかのようにように、笑うのはやめろ」

真っ直ぐに私を見る赤井さんの瞳。


「・・・・・・っ・・・」

思わず堪えていた涙がこぼれる。


「それに俺から見ればなまえは、わかりやすいくらいだ。だからもっと素直に自分のやりたいようにすればいい」

ぽんっと頭に手を置く赤井さん。


「泣きたいなら、俺でよければ胸くらい貸そう」

冗談めいた口調で、少し口角をあげる赤井さん。


「・・・っ・・・なん・・・で・・・・っ・・」
「ん?」
「・・・なんで・・・そんなに優しくするんですか・・・っ・・・」

思えば、この世界に来てから赤井さんに頼ってばかりだ。


「悪いようにはしない。約束したからな」

約束。大嫌いだったその言葉。


赤井さんのその一言で、張り詰めていた何かがぷつりと切れた気がした。

子供みたいに泣きじゃくる私を、彼は何も言わずにそっと抱きしめ頭を撫でてくれる。


「・・・・・・っ・・・ほんとは・・・お母さんと・・・っ・・・・・・もっと話したかった・・・」
「あぁ」
「・・・・・・っ。大好きだったから・・・っ、彼ともずっと一緒に・・・・いたかった・・・っ・」
「あぁ」

最後の方は自分でも、何を言っていたのか覚えていない。


泣き疲れて意識を手放すまで、そんな言葉を赤井さんはずっと聞いてくれていた。

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