もし出会わなければ | ナノ
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▽ 6-6



「落ち着いたか?」

変声機を切った昴さんから発せられるのは、久しぶりに聞く赤井さんの声だった。


工藤邸へと連れてこられた私は、昴さんに渡された服へと着替え、髪をタオルで拭いていた。


「・・・・・・はい・・・」

とりあえず座れと言いながら、自身も椅子に腰掛ける赤井さん。私も言われるがままに、向かいの席に座る。


「話したくないなら、無理に話さなくていい。ただ何か話したいことがあるなら、1人でかかえることが辛いなら話してほしい」

彼は、無理に聞き出そうとするわけでもなくこちらに選択権を与えてくれる。


「・・・・・・・・・少し昔のことを思い出していました」

そんな昴さんの優しさに、ぽつりぽつりと自分の過去を話す。



━━━・・・

━━━━・・・・・・

━━━━━━━・・・・・・



私の家は物心ついた頃から、父親がおらず母親と二人暮しだった。

幼い頃はなにもわからず、どうしてお父さんがいないのかと聞いたこともあった。ただそのときの母の悲しそうな表情が忘れられず、成長するにつれて父親について触れることはなくなっていった。


母親は心が弱い人だった。

私のことを愛してくれていなかったわけじゃないと思う。でもそれ以上に1人の女性だったんだ。


「なまえちゃんはいい子だから、お留守番できるよね?」

「なまえちゃんは強いから、1人で平気よね?」


呪文のように「いい子だから」「強い子だから」と繰り返される日々。私にそう言い聞かせて、自分は男の人と出かけていく母の後ろ姿。


寂しい、辛い、なんて言える環境じゃなかった。

だって私はいい子でいなきゃダメだから。


いつの間にか、本当の自分が分からなくなっていた。

誰といても、その人が望む私を無意識に演じていた。


今でも忘れられない、大雨が降っていた日の夕方。母が亡くなった。

体調を崩しがちだったし、そんな予感はしてたんだ。


悲しいとは思ったけれど、それ以上にこれから誰に認められるように生きていけばいいのかが分からなくなった。


そんなとき出会ったのがあの人だった。

出会いはよくあるもので、友達の友達だった彼。年上だったこともあり、あの頃の私にはものすごく大人に見えた。


「なまえの人生はなまえだけのものだよ」

彼と一緒にいるうちに、自分気持ちを伝えてもいいんだって思えるようになった。

彼に惹かれていくと同時に、私は彼に依存していっていたんだと思う。


終わりは呆気ないものだった。


彼の気持ちが段々と離れていくのはわかっていた。引き止めれば、引き止めるほど離れていく彼の心。


最後、別れ話をされた頃には、彼にはもう新しい彼女がいた。

私の友人が彼のことを良く思っていないのは、これが原因だ。


あぁ、世の中に絶対なんてないんだな・・・・・・。

ずっと一緒にいられないなら、そんな言葉欲しくなかった・・・。

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