▽ 6-3
「ところで、なまえさんは今は彼氏いないそうですね」
不意打ちで予想をしていなかったことを聞かれ、思わず手に持った紅茶をこぼしそうになる。
「・・・・・・っ?!急に何の話ですか??」
慌てて安室さんの方へ顔を向けると、変わらずニコニコとしている彼。
「さっき梓さんと話してるのが聞こえたので少し気になって」
あのときの安室さんは、女子高生と話していたはず。なんで梓さんと話してたこと知ってるんだ・・・・・・。
「1年ほど前に別れたので、今はいませんね」
「てっきり沖矢さんとそういうご関係なのかと思いました」
梓さんも安室さんも、どうしてそっちに話をもっていくんだ・・・。
「昴さんとはそんな関係じゃないですよ、私にはもったいないくらい素敵な人なので」
食べ終わったケーキのお皿を安室さんに渡しながら言う。
「もったいないですか・・・。ちなみになまえさんはどういった方が好みなんですか?」
「今日の安室さんはガールズトークがしたい気分ですか?」
いつもは世間話をする程度で、こんな話をすることはないので思わず疑問が口からこぼれる。
「ははっ、そうかもしれませんね。さっきの女子高生たちの影響かもしれません」
本当にこの人は笑顔を崩さないなぁ・・・。
「好きなタイプの話でしたよね?私は一途に想ってくれる人ですかね。あとは嘘をつかない人です」
「ずっと一緒にいよう」「ずっと好きだよ」 ・・・・・・・・・っ。
脳裏に今となっては嘘となってしまった、彼の言葉がよぎる。
最近は思い出してなかったのに・・・・・・。
「・・・・・・さん?なまえさん?」
安室さんの声でふと我に返る。
「すいません、立ち入ったことを聞いてしまいましたね」
自分とのやりとりで気を悪くしたと思ったのか、申し訳なさそうに眉をさげる安室さん。
「いえ、大丈夫です。ずっと本を読んでたのでちょっと疲れたみたいです」
安室さんのせいじゃないですよ、と笑顔で付け加える。
理由に無理があるかなとは思いつつも、今は早くひとりになりたいと思った。
今日はもう失礼しますね、とお会計をお願いし、梓さんにも「また来ますね」と声をかける。
出口まで見送ってくれた安室さんに、頭を下げながらマンションへと続く道を進む。
*
ポタっポタっ
「・・・・・・雨・・・・か・・・・・」
先程まで夜空を照らしていた月は、厚い雲に隠れている。ポタポタと降り始めた雨が頬を濡らす。
早くどこか屋根のある場所で雨宿りしなきゃ、頭では分かっているのに足が地面に張り付いたように動かない。
━━━・・・
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━━━━━━━・・・・・・
「・・・っ!お願い、もう1回話したいの!」振り払われる腕・・・・・・「もう無理なんだって・・・ごめん・・・」去っていく後ろ姿・・・・・・涙すら流せず立ち尽くす私・・・・・・そんな私の涙の変わりかのように降り続ける雨・・・・・・「あぁ・・・、やっぱり雨って嫌いだな・・・・・・」
しとしとと降り続く雨を眺める。頬を濡らしているのは、雨なのか涙なのか・・・・・・。
思い出せば出すほど、ヒュッと喉の奥が締め付けられるような気がして、息がしにくくなる。
すれ違う人が、私のことを怪訝な表情を浮かべながら見ている。
あぁ、しんどいな・・・・・・。息が詰まる。
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