▽ 5-1
数日が経ち、火傷の痛みはほとんどなくなった。
安室さんからは、何度か心配をするメールが届いていたけれど、それ以上のことは何もなかった。
ただ安室透として、お客さんに怪我をさせてしまったことを心配して連絡先を聞いただけ。私の中でそう結論づけていた。
*
「やっぱり大きなお店だと品揃えが違いますね」
そう言いながら、私の隣でカートをおしているのは昴さんだ。
今日は私の仕事が休みということもあり、昴さんとショッピングモールに買い物に来ていた。
「ほぉー、調味料も色々ありますね」
大量に陳列された調味料を見ながら昴さんは感心している。
「でもそんなマニアックな調味料は、差し入れを作るときには使いませんよ」
笑いながら、彼が手に取っていた聞いたこともない名前の調味料を棚に戻す。
カレーやシチュー以外の差し入れのメニューを考えたい、と言うことでここへ来たけれどなかなか思いず店内をうろうろとする。
「あ!!」
不意に後ろで女の人の声がして、思わず昴さんと2人で振り返る。
「やっぱりあの時の方ですよね?!お怪我は大丈夫ですか?」
カートを押しながら、パタパタとこちらに走ってくるのは梓さんだ。
「ええ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
そう言いながら笑顔を向けると、心配そうな梓さんの表情が和らぐ。
「よかった〜。安室さんから大丈夫とは聞いていたんですけど、私も子供達もやっぱり心配で・・・」
ホッと安堵のため息をつく梓さん。
ふと梓さんの押していたカートの中が目に入る。小麦粉、バター、砂糖などが大量に積まれたそれらは、とてもひとりの女性が買って帰るとは思えない量だ。
まさか・・・・・・。
嫌な予感がして、隣の昴さんを見上げる。
「梓さん!すいません、お待たせしました」
ああ、やっぱり。
梓さんの名前を呼びながら、こちらに走ってくるのは安室さんだ。
「大丈夫ですよ!電話は終わりましたか〜?」
梓さんが安室さんの方を向く。
「大丈夫ですよ」
梓さんの視線がこちらから外れると、そっと昴さんが耳元で囁く。
そうだ、落ち着こう。
変に動揺した素振りを見せる方が怪しいよね。
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