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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▽ 19-11



けたたましいサイレンの音が鳴り響いたのは、それからしばらく経ってからの事だった。

状況の飲み込めない私は、携帯を鞄に投げ入れるとそのまま部屋を出てマンションの外へと出る。辺りには同じように家から出てきた人で溢れていて、路肩には見たことのない大きなバスのような車が連なって止まっている。


「すいません!何があったんですか?」
「この辺り一体に避難指示が出ているらしいの。詳しいことは私にも分からなくて・・・」
「避難指示・・・」


近くにいた人に聞いてみるも、みんな状況が飲み込めていないのは同じらしい。避難指示という言葉がひとり歩きしていて、詳しい情報を把握している人はいなかった。


「皆さん!順番にこの車に乗ってください!奥の座席から詰めて座ってください!」

車の脇に立つ警察官が大声を張り上げる。

それに従い次々に車へと乗り込んでいく住人達。もちろん私も例外ではなく、言われるがまま車へと乗り込み席へと座る。


席に座った住人達は、ヒソヒソと不安を口にする。そんな中、満席になった車は次々と目的地である避難場所とやらに向けて出発する。


東京湾に架かる東京ゲートブリッジにたどり着いた頃には、辺りには同じ車が何十台と連なっていた。そして運転席のそばに立っていた警察官がようやく口を開いた。


「皆さん、急な避難指示にも関わらず誘導に従っていただきありがとうございます。簡単にですが状況を説明させていただきます」

ざわざわとしていた車内が一気に静まり返り、皆が彼の言葉に集中する。


どうやら避難指示の原因は、あの無人探査機〈 はくちょう〉から切り離されたカプセルが警視庁周辺にに落ちる可能性があるとの事だ。あくまで可能性の話ですと彼は繰り返していたが、ここまで大掛かりな避難が行われるのだ・・・。その可能性はとても高いんだろう。


「これから皆さんには、東京湾の埋立地にある〈 エッジ・オブ・オーシャン〉に避難していただきます」

その言葉に不安そうに顔を見合わせる乗客達。

「それってサミット会場になるはずだった所?」

乗客の一人が声を上げる。


「そうです。それぞれ輸送車ごとに避難先が決まっていて、ここにいる皆さんはカジノタワーに避難していただく形になります」

警察官が窓の外から見える、らせんのモチーフがデザインされたタワーを指さす。


街の喧騒から切り離されたかのようなそれは、まばゆい光を放っていてまるで別世界のようだった。

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