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▽ 19-9



ポアロで安室さんと会った日以来、彼からの連絡はぷつりと途絶えていた。

状況を考えればそれも無理はない。無理をしすぎるあの人の事だ、きちんと寝ているかすら怪しく思えてくる。


それでも私の日常が大きく変わることは無い。


いつも通り仕事を終え家に帰り、ついつい癖で多めに作ってしまった夕食を片付けていると、突然テーブルに置いていた電気ポットから熱湯が噴き出した。


「熱っ!何これ?!」

慌てて電気ポットのコンセントを抜き零れた熱湯を拭く。びしょ濡れになったテーブルを片付けていると、外が何やら騒がしいことに気付く。

ベランダに出てみると、ちょうど斜め下の階から火が上がっていた。どうやら出火の原因はエアコンの室外機らしく、慌てて飛び出してきた住人が室外機を上着で覆って火を消していた。

そのまま下の通りを見下ろせば、道行く人々が悲鳴をあげながら火花の散る携帯を
落としていた。


日常とはかけ離れたその光景に、私は状況を把握しようと部屋に戻りテレビをつけた。

するとどの局も番組が中断され、臨時ニュースに切り替えられていた。


『本日行われている東京サミットのため厳戒態勢が敷かれている東京都内で、次々に起きている不可解な現象について、警視庁からはまだ正式な発表はなく、国内だけでなくサミット参加国を中心に不安と批判の声が日本政府に届いています。パソコンや電気ポットが突然発火したという情報もあり・・・・・・』


バチン!という大きな音がしたかと思うと
、テレビから火花が飛び散り、画面が真っ暗になる。


「・・・・・・嘘でしょ、何これ」

白煙を上げているテレビが映ることはなく、それが私にこれ以上の情報を与えてくれることは無かった。


外からは消防車のサイレンや車のクラクションがひっきりなしに聞こえてくる。


そんな状況で外に出るわけにもいかず、ただソファに座りどうしたものかと頭を悩ませていると、机に置いたままの携帯が鳴る。

恐る恐るそれに手を伸ばし画面を見ると、そこにはずっと連絡を待っていた降谷さんの名前があった。

慌てて通話ボタンを押し、携帯を耳にあてる。


『今は家にいるのか?』

挨拶をする間も惜しいんだろう、私の声を発するより前に彼の声が聞こえてくる。

「少し前に帰ってきたところです。急に電気ポットが壊れたりテレビがつかなくなったりして・・・」
『詳しく話してる時間はない。今すぐネットにアクセスできる電化製品のネット接続を切るんだ』
「ネットって・・・パソコンとかですか?」
『あぁ。あと落ち着くまで外には出るな。事故が多発して危険だ』
「・・・わかりました。降谷さんは大丈夫なんですか?」
『大丈夫だ。じゃあまた連絡するから』


そう言い残すとツーツーという無機質な音に切り替わる。


「・・・切れちゃった」


状況はよく分からないけれど、これだけの騒ぎが東京中で起きているとなると、その対応で警察内は大慌てだろう。

降谷さんだって例外ではないはずで、彼の場合は忙しいなんて表現では表すことができないはずだ。


それでも私の存在を気にかけてくれて連絡をくれた。

たった一分足らずの会話からでも、彼の想いは確かに伝わってきてぎゅっと胸が締め付けられた。

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