もし出会わなければ | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▽ 19-8



どちらもそれ以上言葉を発することはなく、その場を重い沈黙が包む。


「・・・・・事件のことは何も聞いてないよ。だから私からコナン君に話せることはないの」

その沈黙を破るように私は口を開いた。


「本当に何も知らないの?」
「うん。事件のこともニュースで見ただけで、それ以上のことはわからないから・・・」
「・・・・・・安室さんの正体を知ってるってことは否定しないの?」
「・・・・・・知ってても知らなくても・・・、あの人のことで私がコナン君に話せることは何もないよ」


曖昧にそう言うと、納得のいかない様子の彼がまた口を開こうとする。それもそうだ、こんな返事で彼が「はい、そうですか」なんて引き下がるはずがない。

けれどそんなコナン君を昴さんが制する。


「ここで彼女に詰め寄るよりも、その事件とやらの真相を見抜く努力をすべきじゃないのかい?」
「それは・・・っ」
「時間は有限だ。今ここで彼女を問い詰めるのが君にとって・・・・・・、君の大切な人にとって正しい選択なのか?」
「・・・・・・」

昴さんのその言葉を聞くと、コナン君は何かを決意したかのように立ち上がり隣に置いていたスケボーに手を伸ばす。

そして昴さんから視線を外し、私をじっと見つめる。


「なまえお姉さんが何を知っていて考えているのか分からないけど、今回の安室さんのやり方は間違ってる。いくら捜査の為でも、あんな風に真実をねじ曲げるなんてあっていいわけがない」


濁りのない瞳からは強い意志が伝わってくる。彼の言うことは最もなんだろう。けれど・・・・・、


「コナン君の言うことは間違ってないと思う。でも・・・・・・、私にあの人のやり方や考え方を否定することはできないよ」
「あれが正しいやり方だと思うの?」
「正しいかどうかはわからない。それでも彼はその選択をした。だったら私はそれを尊重したいの」


私が蘭ちゃんの立場なら、きっと降谷さんを許せないだろう。巻き込まれた側からすれば“捜査の為”なんて言葉は、なんの免罪符にもならない。


けれど降谷さんだってそんなことは分かっているはずだ。


それでももっと大きな目的の為に・・・・・・、彼の貫くべき正義の為に・・・・・・、その選択をせざるを得なかった。きっと彼はその選択に伴う責任を、全て背負う覚悟があるんだろう。


・・・・・・そうやって今までどれくらいの物を、一人で背負ってきたんだろうか?


それを考えるとズキリと胸が痛む。


私は赤井さんやコナン君のように頭が切れるわけじゃないし、風見さん達のように彼の手足になって動けるわけじゃない。


だったら・・・・・・、


強くて優しいあの人が何かに傷付くことがあれば、そっと支えてあげられる場所でありたいんだ。


「そう・・・。今日は急にこんな所まで来てごめんなさい。昴さんも案内してくれてありがとう」
「ううん、私こそ役に立てなくてごめんね・・・」


そう言い残し私達に背中を向けて歩き出したコナン君が、不意にこちらを振り返る。


「なまえお姉さん!今度ゆっくり話したいんだけど、また会ってくれる?」
「・・・っ、うん!もちろんだよ」
「ありがとう!じゃあまたね!」


ひらひらと手を振ると、そのままけたたましい音ともに加速するスケボーに乗って小さくなる背中。

その背中が見えなくなると、ぽんと頭に重みを感じる。


斜め上を見上げるとそこにはいつもと変わらない昴さんの姿。


「大丈夫か?」
「・・・はい。心配かけてごめんなさい」
「大丈夫ならそれでいい」

その声色はとても優しいもので、先程までの張り詰めていた気持ちが徐々に和らいでいくのを感じる。


「彼とももう和解できたのか?」
「和解・・・・・できたのかはわからないですけど、落ち着いたら話をする約束をしました」
「話?」
「・・・・・・・・全部話そうと思います。私自身のこと」


隠しておくのは限界だと思ったし、これ以上降谷さんに嘘をつきたくなかった。

彼の存在が大きくなるにつれて、話せないことがあるというのは、思っている以上に私の中で大きなしこりになっていた。


「それがなまえの選択ならきっと間違えていないさ」
「昴さん・・・・・・」
「もう決めたんだろう?」
「はい。全部ちゃんと話してその上で隣にいれたらいいなって・・・。隠し事をしたり、嘘をついたりはしたくないと思ったんです」
「彼なら分かってくれるだろう。・・・・・まぁ俺の居場所は黙っていてくれるとありがたいんだがな」
「・・・っ!それは言わないですよ!絶対!」


ふざけたようにそう言って笑う昴さんと、慌ててそれを否定する私。

いつの間にか自然に笑えている自分がそこにいて、隣で笑う彼もやはり私にとって大切な存在なんだと実感した。

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