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▽ 19-6



Another side

久しぶりに見たなまえの顔色は酷いものだった。

彼女に詰寄るコナン君の姿を窓越しに見つけ、今ここで出て行けば彼に何か言われることも予想はできたが放っておくなんてできるわけがなかった。


案の定自分の推理をぶつけてくる彼に、真実なんて話せるわけがない。こうなる事を予想して、毛利小五郎を巻き込んだんだ・・・・・・。


一方的にコナン君との話を切り上げると、相変わらず青い顔をしているなまえを店の中に通す。

時間帯のせいか客は誰もおらず、梓さんも買い出しに出ているので店の中には二人きり。しんと静まった店内、気まずい沈黙が続く。

カウンターに座ったなまえに、いつもと同じ紅茶を渡すとやっと彼女は口を開いた。


「・・・・・・怪我・・・大丈夫なんですか?」
「あぁ、これくらい問題ない」

なまえは俺の右頬に貼られた絆創膏に目をやりながら、心配そうに眉を下げる。そしてカウンターに置いたままになっていた俺の手に彼女の手が重なる。


久しぶりに触れる体温。やはりこんな状況でも、一番に俺のことを心配してくれる彼女の姿に胸が痛む。

あの状況ならきっと毛利小五郎が連行される様子も見ていたんだろう。それに加えてコナン君の推理も聞いていた。どういう事だと聞かれることも覚悟していたというのに・・・。


「・・・・・・よかっ・・・た・・・」
「・・・・・・」

なまえは震える声でそう呟くと、重なっていない方の手で顔を覆う。隠されてしまったせいでその表情は見えない。けれど僅かに震えている肩が全てを物語っていた。


「・・・・・・何も聞かないのか?」

聞かれても答えられるわけがないのに、気付くとそんな言葉が零れていた。

「さっきのことですか?それとも会っていなかった間のこと?」
「両方・・・・・・だな」

顔を上げた彼女と視線が絡み合う。


こんな風にちゃんと向かい合うのは、随分と久しぶりな気がする。思えばあの日以来電話ですら話していなかったのだ、そう感じるのも無理はない。


「聞かないですよ。安室さんには安室さんさんの考えがあるはずです。私がそれに口出せるわけないじゃないですか」
「・・・・・・」
「けど・・・・・・」

きっぱりとそう言いきった彼女の言葉の続きを黙って待つ。すると重ねられた手がぎゅっと握られる。


「・・・・・・無茶だけはしないでください。安室さんが傷付くのは見てて辛いです・・・」
「・・・・・・あぁ」
「ずっと待ってますから・・・。今度はちゃんと話がしたいです」


自分のことを心配してくれる存在、

自分のことを待っていてくれる存在、


そんなものはとっくの昔に失くしたはずだった。


途端にあの日の自分の行動を思い出し、後悔が襲ってくる。どうして彼女の話をちゃんと聞いてやらなかったのか・・・・・・。


「今回のことが落ち着いたら話したいことがあるんです。・・・・・・聞いてくれますか?」
「・・・・・・あぁ、わかった。そのときはちゃんと話そう。約束する」


話したいこと。それが何かは分からなかった。けれど彼女の様子から軽い話でないことは予想できた。赤井の話か、はたまた彼女自身の話か・・・。


「・・・・・・あの日私に言ったこと覚えてますか?」
「あの日?」
「最後に会った日です」
「・・・覚えてるよ。あの日は言い過ぎた。もっと早くに謝るべきだったな・・・」
「・・・っ。違います!謝って欲しいんじゃないです!」

今思い出しても彼女に対して声を荒らげてしまったことや、言ってしまったことには後悔しかない。


「確かに私にとって赤井さんは大切な存在です。安室さんの言う通り、彼のことを心配に思う気持ちだってあります」
「・・・・・・」

分かっていても直接彼女の口からその言葉を聞くのは、なんとも言えない気持ちになる。右手に感じるなまえの体温のおかげで、どうにか冷静さを失わないでいられた。


「けど私が好きなのは安室さんだけですよ」


ぽつりと呟かれた言葉。

彼女のその言葉だけが、いつまでも頭の中に残っていた。

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