▽ 19-2
Another side
彼女に話すべきではなかったか・・・・・。
久しぶりに見たなまえの表情を見た瞬間、そんな考えが頭をよぎった。
化粧で隠しているんだろうが目の下にはうっすらとクマがあり、表情もどこか覇気がない。それでも笑顔を作ろうとする彼女の姿に、思わず胸が痛む。
話を聞けばやはりこの前のことが原因で、降谷君と揉めたらしい。
もう二週間彼と会っていない、どうすればよかったのか・・・と話すなまえは、辛そうに顔を歪めた。
全てを知る彼女なら、彼に真実を語ることもできた。
それでもなまえが話さなかったのは、ただ純粋に彼の心を守りたかったからだろう。
今目の前にいる俺よりも、随分と会っていない彼の方が彼女の心の多くを占めている。その事実を改めて突きつけられたようで、胸に僅かな痛みを覚える。
「私にはどうすることも出来ないですか?」
不安げに瞳を揺らしながらそう尋ねてきた彼女に、なんと答えるべきか一瞬考え込む。
この世界に来てから彼女の願いは、いつだって彼の幸せだった。・・・・・・いや、この世界に来る前もそうだったんだろう。
だったら俺が彼女に送れる言葉なんて多くはない。
「・・・・・・なまえさんはそのままでいいんですよ。変わらない貴女に救われる人もいるんです」
救われる人・・・・・・、それが誰を指すのか・・・。
きっと彼女が想うのは、今までもこれからも彼だけだろう。
だからこそ・・・・・・、どうか俺の心の奥には気付かないでほしい。
「私は・・・・・・昴さんのことも大切ですよ?」
「それは光栄ですね」
俺は彼女の言葉に、冗談めかした声でしか返すことができなかった。
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