▽ 19-1
※ ここから先はゼロの執行人のネタバレ、内容の一部改変を含みます。苦手な方はご注意ください。
降谷さんと会わなくなって二週間が過ぎた。
きっとポアロに行けば会える。けれど私の足があそこに向かうことは無かった。・・・・・・どんな顔をして彼に会えばいいのかわからなかった。
降谷さんが時間を作ろうとしなければ、私達の時間はこうも重なることはないのかと改めて気付く。
それでもまだ一日一回はメールが届いているということに、救われている自分がいた。
届く時間はバラバラで、内容も飾り気のある文章じゃない。それでもそのメールだけが、まだ私達が繋がっていると確かに思わせてくれていた。
*
「そんな顔をするくらいなら、会いに行けばいいじゃないですか」
「・・・・・・そんなに酷い顔ですか?」
「えぇ。ちゃんと寝ているんですか?」
「うーん・・・それなりには・・・」
カウンター越しに洗い物をしている私の顔を見た昴さんが顔を顰めた。
降谷さんとのことを電話で伝えた翌日、昴さんはバイト先まで会いに来てくれた。ここでなら話していても不自然じゃないだろう、と私の話を聞いてくれた。
貴女が気にすることじゃない。昴さんならそう言ってくれることは、この短くない付き合いの中でわかっていた。
それでもこれ以上この人の優しさに甘えるわけにいかないんだ。
どちらが大切かなんて決められるわけがない。二人とも私にとっては大切で、失くしたくない存在。
綺麗事かもしれないけれど、傷つけあって欲しくない。
「とりあえず今日は、仕事が終わったらちゃんと寝てください。そんな顔色ではいつか倒れてしまいますよ」
「・・・・・はい」
「今回のことは、貴女が気に病むことではありません。遅かれ早かれいつかはぶつかる問題だったんです」
「私にはどうすることも出来ないですか?」
昴さんにこんなことを聞くべきじゃないのに・・・・・。頭ではわかっていても、誰かに答えを求めたくなってしまう。
「・・・・・・なまえさんはそのままでいいんですよ。変わらない貴女に救われる人もいるんです」
「変わらない・・・・・・私・・・?」
洗い物をしていた手がいつの間にか止まる。こちらを見る昴さんの瞳が僅かに開かれ視線が交わる。
「何を知っても、これから何が起きても・・・・・・なまえさんが彼を思う気持ちは変わらないでしょう?」
「・・・・・・はい」
「その気持ちにいつか彼が救われる日が来ますよ」
優しく笑った昴さんの真意は分からなかった。これから何が起きるというのか、私にわかるはずもない。けれど笑っているはずの昴さんが、どこか切なそうに見えて・・・・・・、
「私は・・・・・・昴さんのことも大切ですよ?」
「それは光栄ですね」
冗談めかしたトーンでそう言った彼からは、先程の切なさは感じることができなかった。
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