▽ 18-2
Another side
一週間ぶりになまえに会った。
仕事を終え彼女の家を訪れる。一緒に夕食をとり、ソファに腰掛け他愛もない話をする。いつもと変わらない光景のはずが、この日のなまえはどこか様子が違っていた。
「何かあったのか?」
「・・・・・・っ、何でですか?」
「様子がおかしい。さっきからうわの空だろ」
図星と言わんばかりに目をぱちくりとさせる彼女。何かを言おうと口を開きかけては、それを止め口を噤んでしまう。
「言いたいことがあるならはっきりと言ってくれ。逆に気になるだろ」
「・・・・・・怒りませんか?」
「怒られるようなことをしたのか?」
まるで叱られることを恐れている子供のように、俺の表情を探る。一体何をしたというのか・・・・・・、頭の中で色々な可能性を考える。
けれど彼女が口にしたのは、俺の予想の斜め上をいくものだった。
「・・・・・・赤井さんのことです」
「・・・・・・あいつが何だ?」
自分でも驚くほど低い声が出た。彼女がその名前を口にするだけで不愉快でしかない。
たしかに彼女の言葉を信じると言った。今でもその言葉に偽りはない。なまえが俺に近付いたのは、奴の策略なんかじゃなく彼女自身の意思だと信じている。
けれどあの男との関わりを口に出されて、感情を乱さないでいられるほど俺はできた人間じゃない。
穏やかに流れていた空気が一変して、ピリピリと緊張感を帯びたものになる。
彼女も分かっていたはずだ。あいつの名前を口に出せばこうなることくらい・・・・・・。
「降谷さんは赤井さんが許せないんですよね・・・?」
「ああ、そうだな」
「・・・・・・理由があったとしてもですか?」
「何?」
「赤井さんの行動に理由があったとしても・・・・・・、降谷さんの考えは変わらないですか?」
理由・・・・・・だと・・・?
明確な物言いを避けた彼女が何を話しているのか、俺が思い浮かべていることと同じことを話しているのかは分からない。
「・・・・・・あいつなら救えたはずだ」
「・・・え?」
「あの男ならいくらでも方法はあったはずなんだ!それを・・・っ」
彼女があの日の出来事を知るはずがない。いや、もしかしたら赤井から聞いているのかもしれないな・・・・・・。
認めたくない。認めたくないけれど、あの男なら人ひとり逃がすくらい簡単だったはずなんだ。なのに何故・・・・・・っ。
まるであの日にタイムスリップしたかのようだった・・・。
目の前に広がるのは動かなくなった友の姿と鮮やかすぎる赤。もっと早く気づいていれば・・・、もっと早く駆け付けれいれば・・・・・・。何度後悔したかわからない。
それを許せるかだと?許せるわけがない。
「許せるわけがない。理由なんて関係ない」
「・・・・・・そう・・・ですか・・・」
どうしてなまえがそんな傷ついた表情をするんだ・・・。揺れる瞳に歪んだ表情、俺の言葉に傷ついたことがひしひしと伝わってくる。
「・・・・・・そんなにあの男が気掛かりか?」
「・・・どういう意味ですか?」
「俺があの男に何をするか心配なのか?あいつが大切だから?」
「・・・っ!そういうことじゃないのに・・・っ」
言うべきじゃない。頭では分かっていた。
けれど一度彼女を責める言葉を吐いた俺の口は、言葉を止めることが出来なかった。
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