▽ 17-5
Another side
ポアロでのバイトを予定通り終えると、彼女との待ち合わせ場所に向かうため車に乗り込む。
その時、仕事用の携帯の着信音が鳴り響く。
電話口から聞こえてきたのは、少し焦った部下の声。時間を確認してみると、約束の時間までにはまだ余裕がある。そう思った俺は、そのまま車を飛ばして警察庁へと向かった。
*
三十分もあれば片付くと思っていた用件は、思ったいた以上に時間がかかった。部下達が走り回っている中、俺一人が携帯を触る余裕もなく時間だけが過ぎていく。
やっとの思いで警察庁を出た頃には、待ち合わせの時間から既に三時間が経とうとしていた。
慌てて携帯を取り出してみると、このタイミングでまさかの充電切れ。充電器に繋ぐも、なかなか入らない電源に苛立ちが募る。
「・・・・・・待ってるわけないよな」
いつの間にか真っ暗になった外は、白い雪に彩られていた。
三時間だ。
この寒さの中、待っているわけがない。
まして連絡のひとつも寄越さない男を・・・。
クリスマス。
俺からすればなんて事ない日でも、なまえが今日を楽しみにしていことは知っている。
それに世間一般が、今日をどんな風に過ごすかも理解している。駅前なんて、イルミネーションを見に来たカップルで溢れていただろう。
そんな中一人で待たせてしまった。
愛想を尽かされたかもしれない。
こんな付き合いに疲れたかもしれない。
頭の中をぐるぐると嫌な想像が巡る。
それでいいのか・・・・・・?
彼女を失くしてしまっても・・・。
「・・・っ・・・」
いつもより乱暴に車のキーを回す。エンジン音とともに、車を飛ばし待ち合わせ場所に向かう。
失くせるわけがない。
例えなまえが待っていなくても、俺が行かないなんてあっていいわけがない。
駐車場に車を停めると、駅前に向かって走る。平日にしては、人で溢れている駅前で、なまえの姿を探す。
待っているわけがない。待っていて欲しい。
二つの気持ちが頭の中で交差する。
そして見つけた小さな影。
「なまえ!」
待っていてくれた。
抱き締めた身体が冷え切っていることに、ズキりと胸が痛む。一体どれだけの間、俺を待っていてくれたんだろうか。
「私はずっと待ってますよ。だから安心してください」
ずっとなんてないことを俺は知っている。
人の気持ちは移りゆくものだし、そうでなくても別れはある。
けれど彼女がそう言うと、その言葉を信じたくなる。
これ以上何も失くしたくない。
腕の中にあるこの小さな幸せを手放したくない。
彼女は、俺にとって光のような存在だった。
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