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▽ 17-4



昴さんの背中が見えなくなると、再び一人ぼっちになる。


「はぁ・・・・・・」

無意識に零れた溜息に、慌てて小さく首を振る。待つと決めたんだから、へこんでる場合じゃない。


きっと降谷さんは仕事だろう。連絡すらないことを考えると、そんな時間すらないほど忙しいのか・・・・・。それともそんな余裕すらない状況なのか・・・。彼がここに来ないことよりも、何か危険に巻き込まれているんじゃないかと不安になる。


俯きかけた顔を上げると、目の間にはキラキラとした光で彩られた木々が目に入る。

それを眺めるカップル達。寒さをしのぐように肩を寄せ合う彼らを見ていると、自分に吹き付ける風がより冷たさを増すように感じる。


「なまえ!」
「・・・っ・・・」

彼らから目を逸らそうと再び俯きかけたその時、聞きなれた声に名前を呼ばれはっと顔を上げる。


こちらに走ってくる姿を見ると、反射的に笑顔になる。


よかった。何かあったわけじゃなかった。

先程とは違い安堵の溜息が零れる。


「・・・・・・っ、悪い。連絡できなくて・・」
「大丈夫ですよ。お仕事だったんですか?」
「あぁ。ちょっとトラブルがあって・・・・・・」

何度も繰り返し謝る彼に、いつもの余裕はなくて・・・。少し乱れた髪が、急いでここに来てくれたことを教えてくれる。


あぁ、その事実だけで充分だ。


「髪の毛乱れてますよ。珍しいですね」
「・・・走ってきたからな。鏡見てる余裕がなかった」
「ふふっ、なんか貴重な姿を見た気分です」


乱れた前髪を直そうと彼の前髪に手を伸ばすと、その手を強く掴まれる。


「冷え切ってるじゃないか・・・。ずっと外で待ってたのか?」
「えーっと・・・、末端冷え性なので・・・?」
「・・・・・・」


さすがに無理があるだろう。思わず心の中で自分にツッコミを入れつつ、目の前の彼を見上げる。


降谷さんは何も言わず、自分のしていた手袋を片方だけ外すと私の左手にそれをはめる。


「ほら、右手出せ」
「・・・・・・はい」

言われた通り右手を差し出す。差し出した手は、降谷さんの大きな手で包まれそのまま彼のコートのポケットへと入れられる。


「・・・っ、これは何だか恥ずかしくないですか?」
「なまえが風邪をひくよりマシだ」

そのまま私の手を引いて、駐車場の方へと歩いていく降谷さん。


普通の恋人同士みたいだ。

繋がれた手を見て思わず口角が上がる私。


「本当に悪かった」
「私が待ちたくて待ってたんですよ?だから謝らないでください」
「・・・・・・俺が来ないとは思わなかったのか?」


車に乗り込むと降谷さんは、再び私に頭を下げた。そして私に昴さんと同じこと聞く。


来ないかも。たしかにその可能性もあった。

けれど今日は彼が、私のことを想って誘ってくれたのだ。


「来てくれたじゃないですか」
「え?」
「降谷さんは来てくれたじゃないですか。それで充分で・・・っ!」


言い終わる前に、私は彼の体温に包まれる。少し苦しさを覚えるくらいに、強く抱きしめられる。


「・・・・・・ありがとう」
「何が・・・ですか?」
「・・・待っていてくれて」


小さく零れた言葉。私はそのまま彼の腰に手を回し、ぽんぽんと背中を叩く。大きいはずの背中がやけに小さく感じる。


「私はずっと待ってますよ。だから安心してください」
「・・・・・・」


背中に回された腕に、ぎゅっと力が入る。

彼が何を考えているのか、私には分からない。


失くすこと、置いていかれること。

もしかしたら私以上に、彼はそれに怯えているんだろうか。


私がそばにいることで、少しでもその痛みは和らぐんだろうか。


だとしたら私の答えはひとつだ。


「メリークリスマス、降谷さん」
「あぁ、メリークリスマス・・・」


彼が望んでくれる限り、私はずっとそばにいたい・・・・・・。


光り輝く街並みを見ながら、私は心にそう誓っていた。

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