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▽ 17-3



Another side

それは本当に偶然だった。


12月25日。今年初めての雪が降った。ホワイトクリスマスに街は色めき立つ。


生憎そんなことに興味のない俺は、家から少し離れた本屋で買い物をし、行きつけのBARで少し酒を嗜んだ後一人自宅へ向かっていた。


はらはらと降り続く雪を防ぐため、道行く人は傘をさしているので視界が悪い。


駅前に差し掛かったそのとき、見覚えのある後ろ姿に目がとまる。傘もささずに背中を丸める小さな影。時計を確認すると、既に終電まで残り一時間を切ったところで待ち合わせをするには遅すぎる。


「なまえ!」

疎らになった人を避けながら彼女の方に向かう。俺の声に驚いたかのように、辺りをキョロキョロと見回す彼女。


「昴さん?何でこんな所に・・・」
「そんな事はどうだっていいんです。なまえさんこそなんで一人でこんな所にいるんですか?」

彼女の肩や頭には薄く雪が積もっていて、随分長い間ここにいたことを教えてくれる。手袋も何もはめていない手に触れると、まるで氷のようにそれは冷え切っていた。


「・・・待ち合わせしてたんですけど、ちょっと遅れてるみたいで・・・」
「・・・・・・一体何時に待ち合わせだったんですか?」
「あははー・・・、何時だったかな?忘れちゃいました」
「はぁ・・・。彼に連絡はしたんですか?」


気まずさを隠すように笑うなまえ。こんな風に笑う彼女を見るのは久しぶりだ。


恐らく待ち合わせの相手は降谷君だろう。そして彼女の性格からして、彼に連絡を入れたり、急かしたりする真似はしないはずだ。きっとただ彼が来ることを信じて、ずっと此処で待っていたんだろう。


「きっと仕事が忙しいんですよ。だからもう少しだけ待ってみます」
「・・・・・・」
「私は大丈夫ですから。ほら!こんな所にいたら昴さんが風邪ひいちゃいますよ!」


それはこちらの台詞だ。俺からすれば自分の体調なんかより、なまえの身体の方が大切だ。こんな寒空の下、一人で置いていくなんて出来るわけがない。


それに降谷君が来る保証もないんだ・・・。彼はきっと仕事を優先するだろうし、彼女もそれを受け入れている。俺が口出すべきことじゃない。


「・・・・・・来ないかもしれないだろう」
「え?」
「彼が来なかったらどうするんだ?それでもずっとここで待つのか?」
「・・・・・・」


口調が崩れていることにも気付かないまま、彼女を責めるような物言いになってしまう。そんな俺を見て、なまえは困ったように笑う。


「昴さんは優しいですね」
「何?」
「いつも私の事を一番に心配してくれて・・・。でも大丈夫です。何となくですけど、降谷さんは来てくれると思うんです」
「・・・・・・」
「もし彼がここに来てくれた時に、誰も待ってなかったら寂しいじゃないですか。だから待っていたいんです」


彼女に返す言葉を俺は持ち合わせていなかった。こんなにも優しい瞳で彼を語るなまえに、これ以上何が言えるというのだろうか。


まるで心臓を掴まれたかのような痛みを覚える。・・・・・・気の所為だ。俺はただ彼女を心配しているだけだ。


小さく息を吐くと、自分の首に巻いていたマフラーを外し彼女の首にぐるぐると巻き付ける。


「昴さん?」
「女性がこの時期にそんな薄着ではいけませんよ。これでもないよりは、マシでしょう」
「・・・・・・ありがとうございます」
「もし彼が来れなかったときは連絡してください。迎えに来ます」
「ふふっ、わかりました。本当にありがとうございます」


マフラーで口元を隠しながら、目尻を下げるなまえ。髪に積もっていた雪を軽く払ってやると、彼女の手が俺の手に触れる。


「本当にありがとうございます。いつも心配をかけてごめんなさい」
「・・・・・お前の心配をすることにはもう慣れた。今更謝られることじゃない」


そう言い残すと、彼女に背を向けて軽く手を振る。人混みに紛れながら、ちらりと後ろを振り返る。口元に両手をあてながら、時計を見あげる彼女の姿が目に入る。


その表情は、先程までとは違いどこか切なさを帯びていて・・・・・・。どれだけ取り繕っていても、やはり寂しい思いをしているんだろう。


「俺ならそんな思いはさせないのにな・・・」


ぽつりと零れた独り言は、誰の耳に届くことも無く人混みの中へと消えていった。

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