▽ 17-2
Another side
分かりやすくなまえの表情が曇る。いや、分かりやすくというのは語弊がある。彼女をよく知らない奴からすれば、その感情の機微には気付かないかもしれない。
クリスマス。今までの俺ならそれはただの平日でしかない。けれど彼女が隣にいるなら・・・・・・、
「夜なら会えると思う」
「え?」
「ポアロでのバイトが終わったあとなら会える。さすがに遠出はできないけど、ドライブでも行くか?」
「・・・っ、行く!行きます!」
先程までとは違い一気に笑顔になるなまえ。そんな彼女につられて、俺の表情も緩む。
その笑顔の為なら、多少の無理くらいなんてことはないと思えてしまうんだ。
「八時くらいには、迎えに行けると思う。家で大丈夫か?」
「うーん・・・あ、そうだ!待ち合わせにしませんか?」
「待ち合わせ?」
「駅前とかで待ち合わせがしてみたいです!何だかデート感あるじゃないですか」
「ふっ、なんだそれ」
たしかに彼女と会うのは、ポアロかこの家がほとんどだった。デートらしいデートなんてしたことがない。
それでも一言も文句や不満なんて言わないなまえに甘えていた。会えるだけでいい、そんな彼女の言葉を鵜呑みにしていた。
寂しい思いをさせているんだろう・・・・、そう思うと申し訳なさが募る。
普通の男なら彼女が我慢する必要もないんだ。好きなところに行けるだろうし、休みの日はずっと一緒にいれるんだろう。
それでも・・・・・・、
「
離したくないんだよな・・・」
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない。何食べたいか考えておけよ」
手放すなんて選択肢は、今の俺にはない。
例え彼女に我慢を強いることになっていたとしても・・・・・・。
彼女と付き合い始めて一ヶ月。
正直この生活をしながら、彼女と会う時間をつくるのは容易とは言い難い。
ポアロ以外で会う頻度を増やせば、組織に目をつけられるかもしれない。けれどポアロで彼女と会えるのは、僕であって俺じゃない。
せめてクリスマスぐらいは・・・、俺が俺のままで彼女のそばにいたいと。普通の恋人同士のように、彼女が望むことを叶えてやりたいと思った。
「会えるだけでいい」
「え?」
隣に座っていたなまえがぽつりと呟く。俺を見る彼女は、優しく笑っていてまるで心の中を読まれたかのような感覚に陥る。
「私は降谷さんに会えるだけで幸せですよ?いつも忙しいのに、こうやって時間作ってくれてありがとうございます」
「・・・っ、礼を言われることじゃない」
「ふふっ、でも言いたくなったんです」
礼を言うのは俺の方だ・・・。
彼女はいつも俺の望む言葉をくれる。
・・・・・・俺は彼女に何か与えられているんだろうか?
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