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▽ 16-4



Another side

太陽が傾きかけた頃、玄関のチャイムが鳴った。今日は特に来客の予定は無いが、無視するわけにもいかないので作業をする手を止め玄関へと向かう。


ガチャっという音とともに扉を開くと、そこに居たのはあの眼鏡のボウヤだった。


「こんにちは、昴さん。少し話したいんだけどいいかな?」
「ええ、もちろん」

断る理由もないので家の中へと招き入れる。正直そろそろ来るかもしれないとは思っていたが、予想より少し早かったか。リビングへと向かいながらそんなことを考える。


「なまえさんと安室さんが付き合ってるって赤井さんは知ってたの?」

向かい合って椅子に腰掛けると、彼は何の前振りもなくそう尋ねてきた。その真剣な表情から、彼がなまえという存在を測りきれていないことが伝わってくる。


「ああ、もちろん。彼女から直接聞いているよ」
「・・・・・・それは沖矢昴として?」
「ふっ、どうだろうな」

彼との言葉遊びは、刺激的で有意義だと思う。彼ほど頭のキレる人間は、俺の周りにも数える程しかいないだろう。


「答える気はないってこと?」
「そうだな。なまえのことに関して、君に話せることは何も無い」
「・・・っ、けど安室さんが何も無く付き合うなんてあると思うの?!」


のらりくらりと質問をかわしているのが気に入らないのか、彼の語気が少し強くなる。


正義感からなのか、探偵ゆえの探究心からか・・・・・。まぁ俺が彼の立場なら、間違いなくなまえの存在に興味を持っただろうから気持ちはわからなくはない。


「君が思っているより、安室君は人間らしい一面があるということだ」
「え?」
「どういう状況で彼らのことを知ったのかは知らないが、あの男はなまえに関して打算的な考えなんて持ち合わせていない。それだけは俺が保証する」
「何でそんなことがわかるの?」
「ふっ、それは君より長く生きているからとでも言っておこうかな」


彼があの子を想う気持ちは、間違いなく本物だ。そんなことあの二人を見ていればわかる。


そしてなまえが彼に向ける気持ちも・・・・・・。


そこまで考えた時、僅かに胸にズキりとした痛みを覚える。ああ、まただ。最初にこの痛みを感じたのは、東都水族館での一件の後。彼女が降谷君を好きだと自覚したあの日だったか。


自分だけに懐いていた猫が、他の人に心を許したことを寂しく思う気持ち。きっとこの痛みは、それと同じだ。


彼女がこの世界で頼れる人間、心を許せる人間ができることはいいことのはず。


「赤井さん・・・?どうかしたの?」
「何がだ?」
「何だかいつもより・・・・・」


その後に続いたボウヤの言葉は、とても小さいもので上手く聞き取ることができなかった。けれど敢えて聞き返すことはしない。


時間が経てばこの気持ちもなくなるはずなんだ。


なまえが俺以外を頼るようになる。それを想像すると、胸にふつふつと浮かんでくる黒くドロドロとしたこの感情。


俺はそれに気づかないふりをして、そっと蓋をした。


あの子が笑っていられるならそれが一番なんだ。頭の中でそう繰り返しながら・・・・・・。

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