▽ 16-3
安室さんの一言で、先程まで心を占めていた黒いモヤモヤが晴れるのだから我ながら単純だなと思う。
お弁当を渡すと嬉しそうに笑った彼の姿を見れば、仕事前に早起きして料理本と睨めっこをした時間すら大切なものに思えてしまうのだ。
「・・・・・・好きだなぁ」
「安室さんのこと?」
「っ、コナン君?!いつの間に戻ってきたの?」
仕事に戻った彼の背中を見ながら、無意識に零れた言葉。まさか返事が返ってくるなんて思っていなかった私は、隣の小さな影に驚く。
そんな私の様子を知ってか知らずか、コナン君は席へと持ってきたオレンジジュースを両手で持ちながらこちらを見ていた。
「なまえお姉さんっていつから安室さんのこと好きなの?」
「いつから・・・?うーん、いつかなー?」
「僕知りたいなぁ」
「こーら。子供が興味持つのはまだ早いの!」
「ええ〜!だってぇ〜」
普通の人ならくらりと絆されてしまうコナン君の物言いも、近くにいた梓さんにぴしゃりと遮られてしまう。
いつから。改めてそれを問われると、一体いつからなんだろうか。
初めて会ったあの日?
関わるなと言われた日?
それとも彼が気持ちを伝えてくれた日?
きっとそれはどれも正解でどれも違う。この世界に来た瞬間、降谷さんがここに存在していると知ったあの時。
ずっとずっとあの人の幸せを願っていた。
それはこの世界にくる前も、きた後も変わることはなくて・・・・・・。
沢山のものを失った彼がこれ以上なにも無くさないように・・・・・・、少しでも心から笑っていられるように・・・・・・、ただそれだけを考えていた。
守りたいものの為に信念を貫く彼が、少しでも傷つかないように。傷ついてしまったときに、ほんの少しでもいいから安らげる場所でありたい。
いつの間にか私の頭の中は、降谷さんの存在でいっぱいだったんだ。
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