もし出会わなければ | ナノ
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▽ 16-2



Another side


こちらを見つめるなまえの目は、明らかにいつもより不機嫌さを孕んでいた。その表情に思わず口元に笑みが浮かびそうになる。


「なまえさん。いらっしゃってたんですね」
「・・・・・えぇ。少し前から」

敢えて客の女性の腕を振りほどくことなくなまえに問いかけると、彼女の眉間の皺がより深くなる。


出会った頃に比べると、本当に喜怒哀楽が分かりやすくなったと思う。楽しければ笑うし、今のように機嫌が悪ければそれが表情にも現れる。当たり前のことかもしれないが、彼女の心に近付けた気がして嬉しさを覚える。


「ねぇ〜、この人誰?」

袖を引っ張りながら問いかけてくる女性客の声で意識をこの場に戻す。


「彼女は僕の恋人ですよ」
「えっ・・・」


ぽかんとしている彼女の腕をそっと振りほどき、軽く頭を下げるとなまえの方へと向かう。


「なまえさ・・・「どういうことですか!?」
「梓さん?」

なまえが口を開く前に、梓さんが俺に詰め寄ってきた。


「いつからなまえさんと付き合ってたんですか?!・・・・・スーパーで見たときに何だか雰囲気が違うなぁとは思ったけど、本当に付き合ってたなんて・・・」
「梓さん・・・?とりあえず落ち着いてください」
「安室さん!!」
「あ、はい」

彼女の剣幕に俺はもちろんのこと、隣にいるなまえとコナン君もぽかんとしている。


「なまえさんのことちゃんと大事にしてくださいね?傷つけるようなこと絶対しちゃ駄目ですよ」

彼女の言葉に、先程まで黙ってやり取りを眺めていたなまえが口を開く。


「梓さん・・・、ありがとうございます」
「・・・・・私なまえさんのことは、大切なお友達だと思ってるんです。だから安室さんに何かされたらいつでも言ってくださいね」
「ふふっ、頼もしいです。私も梓さんのことは、大事なお友達だと思ってますよ」


俺の知らない間にこの二人は、友情を育んでいたらしい。男にはわからない世界がそこにはあり、どうしていいか分からなくなった俺はコナン君の方へ視線向ける。


ちょうど彼もこちらを見ていて、ばちりと視線が絡み合う。


「・・・・・・本当になまえお姉さんと付き合ってるの?」
「ああ、本当だよ。何か問題があるかな?」
「・・・・・・」
「心配しなくても君が気にすることは何もないよ。彼女はただの一般人だ」
「じゃあどうして・・・」


この少年が懸念していることは、想像に容易い。俺の恋人という立場の彼女が一体何者なのか。黒か白か・・・、奴らを知る存在なのか。


けれど俺の返事はただひとつだけだった。


「好きだからだよ。だからそばにいて欲しいと思ったんだ。君が蘭さんを想う気持ちと同じじゃないかな?」
「それは・・・っ!!!」


頬を僅かに赤らめ慌てて立ち上がった彼の姿を見て、まだまだ若いなと口元に笑みを浮かべる。


ふと右腕に重みを感じ、そちらに視線をやるとなまえが遠慮がちに服の袖を引っ張っていた。


「ほら!コナン君。邪魔したら駄目だからあっちの席に行こ!」
「えぇ〜、僕まだなまえお姉さんとお話したいのに〜!」

そんななまえに気付いた梓さんが、まだこの場に残りたがっているコナン君の腕を引きながら少し離れた席へと向かう。

残されたのは俺と彼女の二人だけ。


「梓さんは良いにしても、コナン君にバレてもよかったんですか?」
「隠す必要がありましたか?」
「私はないですけど・・・・・・」
「なら何の問題もないですよ」


隠す必要なんてない。それにコナン君に対してだって嘘はついていない。

彼女を想う気持ちに打算的な考えなんてないのだから。


「安室さんが大丈夫ならいいですけど・・・」
「それよりさっきはどうして怒っていたんですか?」
「っ、怒ってなんかないですよ!安室さんの勘違いじゃないですか?」
「その割にはここに皺がよってましたよ」

とんっと彼女の眉間を指差せば、むっとした表情でその手を払われる。少しからかい過ぎたか・・・?と思っていると、彼女は何やら鞄から紙袋を取り出した。


「・・・・・・せっかく持ってきたけどそんなこと言うならあげないです」
「それは?」
「・・・・・・お弁当です」
「・・・っ!」

覚えていたのか。自然とその紙袋に手が伸びる。


「僕が悪かったです。認めるのでそれを貰ってもいいですか?」
「すんなり認めちゃうんですね」
「えぇ、意地を張ってなまえさんの手料理を食べる機会を逃すのはごめんですから」


弁当なんて作ってもらうのはいつぶりだろうか。なまえから受け取った弁当をそっとカウンター横に置く。

「・・・・・・さっきのお客さん」
「え?」
「さっきのお客さんよくいらっしゃるんですか?」

ああ、これが惚れた弱みなのかもしれない。今までならこんなことを聞かれることすら面倒だと感じていただろう。けれど今は、遠慮がちに呟いた彼女の姿に愛おしさが募る。


「心配しなくても僕には貴女だけですよ」

安室透としてしか気持ちを伝えることのできないこの状況すらもどかしい。そう思ってしまうほど、俺は彼女に心を奪われていた。

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