もし出会わなければ | ナノ
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▽ 16-1



いつも通り仕事を終えた私は、着替えを終えると化粧を直しポアロへと向かっていた。


私がこの世界に来た頃に比べるとすっかり冷たくなった風が、容赦なく体温を奪う。

しばらくすると見えてきたあのお馴染みの看板。悴む手で扉を開けると、暖かい空気と珈琲の香りに迎えられる。


「こんにちは」
「なまえさん!こんにちは」
「あ!なまえお姉さんだ!」

明るく迎えてくれる梓さんの他に、元気のいい声がもう一つ。

声の主へと視線を向けると、そこにいたのはあの眼鏡の少年だった。


「コナン君も来てたんだね」
「うん!探偵事務所に誰もいないからここで時間潰そうと思って」
「そっかそっか。よかったらお隣り大丈夫かな?」
「もちろんだよ」


ニコニコしながらカウンター席の椅子を引いてくれるコナン君。その隣に腰をかけ、梓さんに温かい紅茶を注文する。


「そういえばなまえお姉さんと会うの久しぶりだね」
「そうだね。・・・・・あの時は助けてくれてありがとう。コナン君すごく格好良かったよ」
「昴さんから聞いてはいたけど、なまえお姉さんに怪我がなくて本当に良かったよ」


あの日の後、昴さん経由でコナン君にお礼を伝えていたもののなかなかタイミングが合わず直接お礼を言えていなかった私は、やっとそれを果たすことができてほっと一息をつく。


「そういえばあの日って・・・・・」
「いいじゃないですか〜!一回くらいご飯連れていってくださいよぉ〜」


コナン君が何かを言いかけたそのとき、不意に後ろから聞こえてきた甘ったるい声に意識を奪われる。

少しだけ視線をずらし後ろを見るとそこにいたのは、数日ぶりに見る安室さんと可愛らしいという雰囲気がぴったりの女性。


「なまえお姉さん?どうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ」

隣から聞こえてきたコナン君の声で、慌てて視線から彼らを外す。そこへ注文していた紅茶を持った梓さんがやってくる。


「お待たせしましたー!・・・・・・って、あの人まだやってたんですね」
「まだやってた?」
「最近よく来るお客様なんですけど、来る度に安室さんに絡んでるんですよ」
「・・・・・・へぇ、そうなんですか」


何だろう、このモヤモヤとした嫌な気持ちは・・・。紅茶のカップを持つ手に力が入る。


「なまえさん?大丈夫ですか?」
「あ、はい!大丈夫ですよ」
「・・・・・ここ皺よってます・・・」

遠慮がちに自分の眉間を指差す梓さん。慌てて額を手で隠し笑顔を作る。


「やっぱり安室さんと何かあったんですよね?」
「そうなの?なまえお姉さん!」
「あははー、二人とも何の話をしてるのか分からないなぁー・・・」

後ろが気になる私は、二人からの追求をかわしながら再び振り返る。するとちょうど女の子が甘えるように安室さんの服の袖を引っ張っているところ。今度は自分でも分かるくらいに、眉間の皺が深くなる。


「・・・・・・っ!」

じっと二人を見ていたせいか、安室さんとばちりと視線が交わる。慌てて目を逸らしたものの、時すでに遅し。私が二人を盗み見ていたことは、彼にバレてしまった。

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