▽ 15-6
「俺はなまえの料理を食べたことがないのに・・・・・、あの男には作るんだな」
「・・・っ!なっ・・・」
不貞腐れたような態度と言葉に、かっと頬が熱くなるのを感じた。
頭の中では、工藤邸での昴さんの言葉が反芻される。
「あんな風に露骨に沖矢昴に嫉妬はしないだろう」自惚れじゃなければ、これは・・・・・・
「ヤキモチ・・・ですか?」
「・・・・・っ・・・、ただ俺が知らないものを、あの男が知ってるのが気に入らないだけだ」
ふんっと背けられた顔に、自然とニヤけそうになる口元を慌てて右手で隠す。
いつもの彼とは結びつかない今の姿。それがありのままの心を、曝け出してくれているようだった。
「何ニヤニヤしてるんだ」
「してないですよ!ニヤニヤなんて」
「してるだろ、鏡見てこい」
「ふふっ、嫌です。降谷さんこそいつもより顔赤いですよ」
「うるさい」
ばっと私の目を手で隠す降谷さんと、その手を払おうとする私。しばしの攻防のあと、私が彼に勝てるはずもなく、両手は塞がれ最終的にソファに置いていたクッションで完全に視界を奪われる。
じゃれ合いにも似たそのやり取り。彼と出会った頃には、こんな時間を過ごすことになるなんて想像すらしていなかった。
「私でよければご飯くらいいつでも作りますよ」
「・・・・・・」
「多分・・・っていうか絶対に降谷さんの方が上手だとは思いますけど」
「・・・・・和食」
「和食?」
「洋食より和食がいい」
「ふふっ、わかりました。練習しときますね」
「ん」
何を作ろうかなとか、料理本買いに行かなくちゃとか、そんな事を考えていると視界塞いでいたクッションが奪われ光が戻る。
掴まれていた手も解かれ、そのまま彼は私の肩にもたれかかった。
「・・・・・・信じてるから」
「え?」
「別になまえの行動を制限するつもりはないし、沖矢昴と会うなとも言わない」
「はい」
「なまえが俺に話してないことがあるのもわかってる」
「・・・・・・」
「信じていいんだよな?」
私を見つめる降谷さんの瞳が僅かに揺らぐ。それでも真っ直ぐにこちらを見つめる青い瞳。逸らしちゃいけない、直感的にそう感じる。
たしかに今の私は、彼に全てを話していない。隠していることがある。けれど・・・・・・、
「私は降谷さんの味方です。好きって言った気持ちにも嘘はないです」
いつかの言葉を繰り返す。
臆病な私はまだ全てを話せない。けれどこの気持ちに嘘偽りはない。それが彼に伝わってほしいと心から願った。
「ならそれでいい」
目尻を下げて笑う降谷さんの姿は、今まで見た彼のどの姿よりも優しいものだった。
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