もし出会わなければ | ナノ
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▽ 15-5



愛なんて所詮思い込みだ。

人は一時的な感情で簡単に嘘をつく。


二度とその言葉を信じることなんてないと思っていた。


けれどそんな凍りついた心も、彼の言葉一つで簡単に温度を取り戻す。


「・・・・・・降谷さん・・・」
「なんだ?」
「これから先もその気持ちって変わらないですか・・・?」
「なまえがなまえでいる限り、俺の気持ちは変わらない」


迷いなくそう言った彼の唇が、そっと私の唇に重ねられる。優しく触れるだけのキスに、きゅっと胸が締め付けられる。


「何がそんなに不安なのか、なまえの頭の中の全てはわからない。けど自分の心の中はわかってるつもりだ。俺はなまえが好きだし、そばにいたいと思ってる」
「・・・・・っ・・・」
「その気持ちだけじゃ駄目なのか?」

私の気持ちを探るような、そして何処か縋るかのようなその瞳。


確約のないこの先の口約束に、どれだけの価値があるんだろうか。きっと降谷さんと出会う前の私なら、そう感じていただろう。


でもそう割り切るには、私は彼を知りすぎてしまったんだ・・・・・・。


「駄目じゃ・・・ないです・・・・・」

私の口からでたその言葉は、紛れもなく心の底から零れた本音だった。





隣に並び座る私達の間に流れる空気は、先程までの車の中とは違いとても穏やかなものだった。

何を話すわけでもなく、ただお互いにその空気に浸っていると降谷さんが小さく「あ・・・」っと呟いた。


「どうしたんですか?」
「・・・・・・思い出した」

床に置いたままになっていた私の手に重ねられていた彼の手が、ぎゅっと私の頬をつまんだ。


「・・・なっ!いひゃいです!」
「うるさい。大事なことを思い出した」

両頬をつねられているせいで上手く言葉を発せない私は、どうにか彼の手を解きじっと彼を見つめた。


「急にどうしたんですか?痛かった・・・」

少し赤くなった頬を摩っていると、降谷さんの表情が真剣みを帯びる。それにつられて私の背筋にも力が入る。


・・・・・・


・・・・・・


「沖矢昴に料理を作ったのか?」
「・・・・・・・・・は?」


予想のしていなかった質問に、気の抜けた声が漏れる。

料理?一体何の話をしているんだろうか?


「だから・・・・・、さっきスーパーで話してただろう?」
「スーパーで・・・・・・あ、煮物ですか?」
「・・・・・・あぁ」


そう言えばそんな話をしていた気がする。たしかに昴さんには、差し入れを兼ねてよく料理を作っていた。数十分前の会話を思い出しながら頷くと、降谷さんの眉間の皺がより濃くなる。


「えっと・・・・・、駄目・・・でしたか?」
「・・・・・・ないのに・・・」
「え?」

小さく呟かれた言葉をうまく聞き取ることができなかった私は、彼の方へと身体を寄せる。

再び聞き返すと、何やら気まずそうに私から視線を逸らす降谷さん。

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