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▽ 15-4



荷物をポアロに運び終えた安室さんは、すぐに車へと戻ってきた。そして車を走らせること数分、見慣れたマンションの姿が見えてくる。


「上がっていきますか?・・・ってこの後もお仕事がありますよね」
「少しくらいなら大丈夫だ。さっきの話の続きもしたいしな」

話の続き・・・・・か。


頭の中では先程の会話がぐるぐると思い出される。それに伴って自然と頬が赤みを帯びていくのがわかる。


付き合っている。自惚れなんかじゃなく、そう思っていいんだろうか。





「それで?さっきの質問はどういう意味なんだ?」

机を挟んで向かい側に座った降谷さんが口を開いた。さっきの質問ってなんですか?なんてふざけて聞けるような雰囲気ではなく、気まずい沈黙が流れる。


「・・・・・私達ってどういう関係なんでしょうか・・・?」

やっとの思いで紡いだ言葉に、降谷さんの表情が僅かに曇る。


「俺は貴女が好きだと言った。それになまえさんも応えてくれたと思っていたんだが、それは勘違いだったのか?」
「・・・っ、それは勘違いじゃないです!」
「だったらどうして・・・」


あの日の言葉を疑ったわけじゃない。彼の言葉に嘘はなかったと思うし、あの時感じた温もりや鼓動は間違いなく本物だった。


けれど目の前のこの人が、“付き合う” という関係を築くのだろうか?彼にとってその関係は邪魔になってしまうのではないか・・・・・・、まして私の存在は不確定な要素が多すぎる。


ずっと心に引っかかっていたことを、ぽつりぽつりと彼に伝えていく。上手く話せている自信なんてなかった。それでも降谷さんは、黙って私の話を最後まで聞いてくれていた。


「好きって気持ちは嘘じゃないです。ただ付き合うとかって、降谷さんはいいんですか?」
「・・・・・・はぁ」

やっとの思いで話し終えると、降谷さんは盛大に溜息をついた。そしてすっと立ち上がると私の隣に腰を下ろす。


「好きだと思う女性と付き合いたいと思わない男がいるのか?」
「それは・・・」
「てっきり伝わっていると思っていたんだが、貴女にははっきりと言わないと伝わらないようだな」
「え・・・?」


降谷さんは小さく息を吐くと、真っ直ぐに私を見据えた。

青い瞳に映る私の姿。同じく私の瞳には彼の姿が映っているのだろうか。


「そばにいて欲しい、俺の恋人として」
「・・・っ・・・」


飾りげこそないもののはっきりと紡がれたその言葉に、じんわりと胸が温かくなる。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼の手が私の頬に優しく触れた。


「返事は?」
「・・・っはい・・・。私でよければ・・・「お前じゃなきゃ駄目なんだよ」


私の言葉は途中で奪われ、気が付くと目の前には青い瞳。

本当に私でいいのか、過去を知っている私が彼と向き合うのはずるいんじゃないか、私の存在は彼の足枷になってしまうんじゃないか・・・・・・。ずっと頭にあったその思いも、その青に見つめられると何も考えることが出来なくなる。


ただこの時間が幸せで、永遠に続けばいいのにと願ってしまう。


「俺はなまえだからそばにいて欲しいんだ」

初めて呼び捨てで呼ばれた名前に、どくんと心臓が大きく高鳴る。

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