▽ 15-3
Another side
ただでさえなまえさんと沖矢昴が一緒にいたことで気分が悪いというのに、先程の会話がそれに拍車をかける。
過ごしてきた時間が違うと言われればそれまでだ。
彼女があの男と親しいことは分かっていた。だからといって、目の前で自分の恋人が別の男に料理を作っていた話を聞いて気分がいいわけがない。
まして俺は彼女の手料理を食べたことすらないというのに・・・・・・。
*
一通り買い物を終え、それぞれの荷物を詰め終わると駐車場へと向かう。
「じゃあ梓さんによろしく伝えてください。お仕事頑張ってくださいね」
俺の車の前でそう言うと、当たり前のように沖矢昴について行こうとするなまえさん。
そんな彼女の行動に眉間に皺がよるのが自分でもわかる。その場を離れようとした彼女の腕を掴み引き止めた。
「僕が送りますよ。今日は買い物をポアロに届けたらそのまま上がりなので」
「でも・・・」
「それとも沖矢さんに送ってもらうほうがいいですか?」
自分でも意地の悪い聞き方だと思う。けれどこうでも言わなければ、彼女は素直に俺の車に乗ることはないだろう。
「なまえさん。彼の仕事が問題ないのなら送ってもらってはどうですか?」
「ほら、沖矢さんもそう言ってますし」
「・・・えっと、はい。じゃあそうします」
「また連絡しますね」
ひらひらと手を振りながら駐車場の奥へと歩いて行く沖矢昴を見送ると、二人で車へと乗り込む。
しんと静まった車内。こうして会うのはあの日ぶりだというのに、何を話せばいいのか言葉が出てこない。
というよりも口を開けば、先程のことで彼女を責めてしまいそうだった。まさかこんな歳になって嫉妬なんて感情に振り回されることになるとは・・・・・・。
「・・・・・・怒ってますか?」
「え?」
「昴さんと二人でいたことです・・・」
「・・・・・怒ってはいない」
怒っているわけでは無い。それは本音だ。
自分の中で持て余しているこの感情に名前をつけるなら、それは怒りではなく嫉妬だ。
信号が青から赤に変わる。視線を彼女の方に向けると、不安げにこちらを見つめる瞳が目に入る。
自分の態度のせいでこんな表情をさせてしまっているのか・・・、とやるせない気持ちが心を占める。
そっと左手をハンドルから離し、彼女の髪に触れる。
「あの男に嫉妬しただけだ」
「・・・っ・・・」
「そんなに意外か?俺だって人並みに嫉妬くらいするさ」
「・・・・・ひとつだけ聞いてもいいですか?」
「ああ」
目を大きく開いてぱちぱちと瞬きをしているなまえさん。そんなに俺と嫉妬という感情が結びつかないのだろうか?
「私と降谷さんってどういう関係ですか?」
「・・・・・・は?」
自分でも驚くほど間の抜けた声が出たと思う。質問の意味がわからない。俺は彼女に好きだと伝えたし、彼女もその気持ちに応えてくれた。まさかあの日の出来事は夢だったとでもいうのか?
「えっと・・・その・・・、付き合ってる・・・・・んですか?」
「・・・・・・逆にどういう関係だと思っていたんだ・・・?」
彼女が質問に答えるより先に、車がポアロへと到着する。
「少し待っていてくれ。荷物を置いたらすぐに戻ってくる。話はそのあとにしよう」
「はい・・・。運ぶの手伝いましょうか?」
「たいした量じゃないから気持ちだけで十分だ」
車から買い物を降ろし店の扉を開ける。店に入る前にちらりと後ろを振り返ると、何やら一人で顔を顰めて考え込んでいるなまえさんの姿が目に入った。
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