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▽ 15-2



結局私も自分の買い物がある為、一緒に近くのスーパーへと向かうことになった私達。


「買い物って何を買うんですか?」
「冷蔵庫の中がもう空なんです。適当に食料を買わなければ食事も作れません」
「あ、そうだ!あれから料理のレパートリー増えました?」

他愛もないやり取りをしながらカートを押す。初めて昴さんと二人並んで買い物をした時は、こんな風に落ち着いて話すことはできなかったなと過去を思い出す。


たしかあの時は・・・・・・、


「あ!!!」


そうだ。こんな風に聞き覚えのある女の人の声に呼び止められ・・・・・・て・・・・・・、


「え?」

私と昴さんがその声につられて後ろを振り返ると、パタパタとカートを押しながら笑顔でこちらに手を振る梓さんの姿があった。

何だろう、これは・・・・・。あの日と同じ・・・、いやあの日以上に嫌な予感がする。


「おや、これは面白いことになりそうですね」
「全然面白くないですよ!」

楽しげに笑う昴さんとは逆に私は表情が引き攣りそうになる。


「なまえさん〜!二人でお買い物ですか?」
「・・・あ、はい。今日は梓さんお一人ですか?」
「違いますよ!さすがにポアロの買い出しは私一人じゃ持ちきれないです」
「ですよね・・・」

ほら、と言ってカートを指差す彼女。たしかにこの量を女性一人で持つのは大変だろう。


「梓さん!やっぱりいつものメーカーの小麦粉は売り切れみたいです」

聞き覚えのありすぎる声。物凄く後ろを振り返りたくない。


やましいことがあるわけではないけれど、昴さんと二人でいる所を安室さんに見られるのはやはり気まずさを覚える。


「なまえさん?」
「・・・えっと・・・こんにちは・・・?」

私達の存在に気付いた安室さん。私の隣に立つ昴さんに向けられる視線が、僅かに鋭さを帯びていることは気のせいだと思いたい。


「二人で何をしているんですか?」
「買い物ですよ。女性一人で大きな荷物を持つのは大変なので、運転手をさせてもらっただけです」
「ほぉー、そういうことですか」

隣で繰り広げられる二人の会話。どこか緊張感を帯びたそのやり取りに巻き込まれることがないように、私はそっと梓さんの隣へと移動する。


しばらくの間二人の会話を見守っていた私と梓さん。すると梓さんがはっとしたように、私の肩を叩く。


「なまえさん!もしかして安室さんと何かありました?」
「・・・っ?!何でですか?」
「女の勘ですよ!何だか二人の雰囲気がいつもと違うなぁって」
「あははー・・・、いつも通りですよ」

女の勘とは恐ろしいものだ、と心の中で苦笑いが零れた。

そのとき携帯の着信音が響く。隣にいた梓さんが「ちょっとごめんなさい」と言いながら、少し離れた場所で電話に出る。

短い会話を終えた彼女は、安室さんの名前を呼んだ。


「安室さん!店長から電話があって、ちょっと私お店に行かなくちゃ行けなくなったの。買い出しの続きお願いしてもいいですか?」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ」

待って・・・。この状況で梓さんがいなくなれば、必然的に三人になってしまう。想像するだけでも胃が痛い。


「じゃあなまえさん、さっきの話の続きはまた今度聞かせてくださいね!」

そう言い残すと私の返事を待つことなく、カートを安室さんに渡すと彼女はこの場を後にした。






すれ違う女性の視線が痛い・・・・・。

左に昴さん、右に安室さんという周りから見れば何とも羨ましがられそうな状況。けれど当の私は、その気まずさに耐えるのに必死だった。


「なまえさん」
「あ、はい!何ですか?」
「買い物くらいいつでも僕が付き合いますよ。沖矢さんを頼ってばかりでは、彼も大変でしょう」
「そんなことないですよ。彼女と出掛けるのは僕も気晴らしになるので」
「たしか沖矢さんは学生さんでしたよね?勉学の方は大丈夫なんですか?」
「ご心配なく。息抜きをする時間くらいはありますよ」


もう嫌だ・・・・・・。何このピリピリした雰囲気。心の中で小さく溜息をつく。


「あ、そう言えばこの前煮物を作ったんですよ」

野菜コーナーに差し掛かった時、昴さんが口を開いた。


「美味しくできました?」
「それが何か一味足りないというか・・・・・、なまえさんが以前作ってくれたものの方が美味しかったですね」
「私だって料理が上手いわけじゃないですよ!でも一味足りないってことは、調味料を入れる順番とかが違ったのかな・・・」


自分が料理をする時の手順を思い出しながら、昴さんへ煮物の作り方を伝えていく。

その話に夢中になっていた私は、少し後ろに立っていた安室さんの纏う空気が変わったことに気付くことができなかった。

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