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▽ 15-1



いつ見てもこの家の門構えは立派だ。久しぶりに訪れたが何度見ても慣れることはないその建物に思わず見入ってしまう。


工藤と書かれた表札の下にあるインターホンを押すと、聞き慣れた昴さんの声が返ってきて玄関の扉が開いた。





「なんだかここになまえが来るのは久しぶりだな」
「たしかに言われてみればそうですね」

玄関の扉を閉めるとすっと変声機の電源を切った赤井さんに促されるまま椅子に腰掛け、用意してくれた紅茶を口に運ぶ。

すっかり寒くなった空気のせいで冷えていた体がじんわりと温まる。

向かい側に座った赤井さんは、目の前に置かれていたティーポットからカップに紅茶を注ぎながら口を開いた。


「わざわざ直接話に来るとは律儀な奴だな」
「ちゃんと赤井さんの顔を見て話したいって思ったんです」



降谷さんと話した次の日、私は赤井さんに電話であの日の出来事を話していた。


全てを話し終えると、たった一言 「そうか」としか言わなかった彼。でもその言葉の響きは優しさを伴っていて、私の判断を否定することは決してなかった。


私の判断を尊重する。
なまえのしたいようにすればいい。


そう言ってふっと笑みを漏らした赤井さんの優しさに思わず私の涙腺は緩んでしまったのだった。




あれから二週間。
何かと忙しい赤井さんとは予定が合わない日々が続いていて、やっと今日直接報告に来れたのだ。


「色々考えたんです。もしかしたら赤井さんのことを聞き出す為の嘘なのかな?とか・・・」
「ほぉー、なるほど。たしかに彼ならやりかねないな」

冗談めかしたトーンでそう言った赤井さんからは、そんな可能性を彼が考えていないことが伝わってくる。


「本当にそのつもりなら彼はもっと上手くやるさ。あんな風に露骨に沖矢昴に嫉妬はしないだろう」
「嫉妬?」
「気付いていなかったのか?」
「いつの話をしてるのか全くわからないです」

ぽかんとした私を見て、赤井さんが僅かに目を見開く。


「やはり自分のことになると鈍いんだな」
「なっ!鈍くないですよ!」
「ふっ、そういうことにしといてやる」
「なんだか物凄く悔しいです・・・」

私の頭を軽く撫でると、飲み終わったカップを流しへと運ぶ赤井さん。


いつもと変わらない時間が流れているこの空間。私の選択を尊重して、変わらずに接してくれる彼に心から感謝の気持ちがあふれた。


「ほら、行くぞ」

カップを片付け終えると、車の鍵を手にした赤井さんがこちらを振り返る。

「どこに行くんですか?」
「恋人のいる女が一人暮らしの男の部屋に長居するもんじゃない。送っていく」
「恋人・・・っ!?」
「違うのか?」
「・・・・・・さぁ、どうなんでしょう・・・・・?」

自分の言葉ではたと気付く。
あの日たしかに降谷さんは私を好きだと言ってくれた。けれど付き合おうなんて言葉はなかった。


言われてみればこの二週間も彼からの連絡は必要最低限のもので、恋人同士かと問われると疑問しかない。


もしかして私一人で勘違いしてた・・・?

嫌な想像がぐるぐると頭の中を巡る。


そんな思考を遮るように、ぱしんっ!と頭に軽い衝撃が加わる。


「痛っ!」
「また余計なことを考えていただろ。さっさと行くぞ」
「待ってください・・・!一人で帰れますよ!わざわざ申し訳ないです」
「どうせ買い物に行く予定だったからそのついでだ。気にしなくていい」

そう言って玄関へと向かう赤井さんの背中を私は慌てて追いかけた。

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