▽ 14-11
Another side
こんな状況でも彼女は腕を振り払うことなく、俺の様子を心配をしていた。
大丈夫かと問いかける声に、一定のリズムで背中を叩く小さな手。その全てから伝わってくるのは、いつもと様子の違う俺を気遣う彼女の優しさだった。
抱き締めていた腕をすっと緩め、なまえさんの顔に目を向けると同じくじっとこちらを見ている瞳と視線が交わる。
その瞳に反射して映るのは、他の誰でもなく俺自身の姿。そのことになんとも形容しがたい満足感を覚える。
ああ、これは・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
認めざるを得ないな・・・。
いつかの公園で風見に言われた言葉が頭をよぎる。
“好意”
ここまで自分の心を乱すものの正体は、間違いなくその二文字の感情だろう。
「好きだ」
「・・・・・・っ・・・?!」
するりと口から零れたその言葉に、なまえさんの瞳が大きく見開かれる。すぐに言葉がでないのか、まるで金魚のように口をぱくぱくとさせる彼女の姿に思わず肩の力が抜ける。
よりにもよって何故・・・・・・、と考えて口元に自嘲気味な笑みが浮かんだ。
俺は彼女の素性を知らない。それどころか彼女はあの男と繋がりがある。怪しいと思わざるを得ない点だってあるというのに・・・・・・。
それでも一度口に出して認めてしまった想いは止めることができなかった。
*
「・・・さっきのって冗談・・・ですよね?」
幾分かの時間の後、なまえさんが遠慮がちに口を開いた。
「冗談?俺がふざけてこんなことを言うと思うのか?」
「・・・えっと・・・、じゃあ所謂ハニートラ「何?」
「赤井さんのことを聞き出す為に油断させよう・・・・・・とか?」
「だったらもっと上手くやる」
冗談じゃない。この状況であの男の名前が出てくること自体苛立たしいのに、ハニートラップ扱いとは・・・・・・。無意識に眉間の皺が深くなる。
「俺だって認めたくないさ。貴女は不確かな要素が多すぎる」
「だったらどうして・・・」
困ったような、そして今の状況をまだ受け止めきれていない様子のなまえさんが視線を俺から外し下を向く。
「・・・・・苛々するんだよ」
「え?」
「勝手に人の心に入ってきたかと思えば、自分の気持ちは隠す。それに口を開けば、二言目には沖矢昴の名前だ」
「それは・・・っ!」
俺の物言いに彼女の体がぴくりと反応する。反論しようと顔を上げた彼女は、思っていたよりも近い位置にある俺の顔に一瞬たじろぎ身を引こうとする。
「・・・・・・だけどほっておけないんだ。一番に俺を頼ってほしいと思うし、なまえさんの弱さも知りたいと思う」
身を引こうとした彼女の右腕を掴み、そのまま腕を引くと離れた距離が再び縮まる。
「俺はなまえさんが言ってくれた“味方だ”という言葉を信じてる。だから俺の言葉も信じてほしい」
どうか伝わってほしいと思った。偽りじゃなく心からのこの想いが・・・。
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