▽ 14-10
携帯の画面を確認すると、昴さんは眉間に皺をよせた。恐らく仕事関係の電話なはずなのに、すぐにこの場を離れることを躊躇した昴さん。笑顔を作り背中を押すと、渋々部屋を後にした彼。
そんな彼の背中を見送り、部屋に残されたのは私と安室さんの二人で気まずい沈黙が流れる。
昴さんに会ったことで少し冷静さを取り戻した私は、はたと自分がまだ彼にお礼すら伝えていなかったことに気付き口を開いた。
先程までのように強がっているわけでもなく、素直に感謝の気持ちを伝えると彼の顔が少し歪む。
何か気に触ることを言ってしまったんだろうか・・・。昴さんの名前を出したのがよくなかったのか・・・。色々と考えを巡らせてみても答えが出るはずもない。
ふと机の上に置かれた安室さんのカップが空になっていることに気付き、おかわりを注ぐため席を立とうとする。
「これ入れてきますね」
そう言って僅かに腰を上げたその瞬間、右腕に加わった力のせいでぐらりと体が傾く。
「・・・っ・・・!」
「・・・・・・」
そのままバランスを失った私の体は、気がつくと安室さんの腕の中で後ろからすっぽりと抱き締められていた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・何・・・これ・・・?
頭の中がパニック状態で上手く言葉が出てこない。
もしかして夢なんじゃないか?と考えてみたけれど、背中越しに感じる体温は確かに現実のものでこれが夢じゃないことを教えてくれる。
「・・・・・・だ・・・」
「・・・え?」
安室さんが私の首に顔を埋めながら、普段の何倍も小さな声で言葉を紡ぐ。
「・・・貴女は一体何なんだ・・・・・・。何で俺の心を乱す・・・?」
私が・・・・・・?安室さんを・・・?
彼の言葉の意味がわからず、顔を見ようと振り返るとそのまま私の視線を塞ぐように抱きしめる腕の力が強くなる。
「安室・・・さん?」
「・・・・・・」
「・・・・・・降谷・・・さん・・・?」
「・・・・・・」
いつもは頼りがいがあり、大きいと思っていた彼の姿が今日は何故かとても小さく見える。
恐る恐る彼の体に手を回し、とんとんと一定のリズムで背中を叩く。
「・・・・・大丈夫・・・ですか?」
「・・・・・・」
私の質問に返事が返ってくることはない。
抱き締められている腕を振りほどくなんて出来ない私は、大きく脈を打つ心臓を抑えながらただひたすら彼が口を開くのを待った。
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