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▽ 14-8



コトンと目の前に置かれた温かな紅茶。いつもと同じ茶葉を使っているはずなのに、淹れる人間が変わるとこうも香りまで違うものなのかと小さく感動する。


「勝手にキッチン借りたぞ」
「・・・っ、はい。ありがとうございます」

紅茶を一口口に運ぶと、すっとその温もりが体に染み渡る。


「あの男と何があったんだ?話せるなら話してほしい」

私が落ち着いたのを確認すると、安室さんが口を開く。ここまで迷惑をかけてしまった以上、隠すような真似はできない。

私は最近後をつけられていた事や、あの手紙の話。先程の男性がバイト先の常連客であることなど、全てを話した。


「早く警察に相談すべきでした・・・。コナン君や安室さんにまで迷惑をかけちゃって・・・、本当にすいませんでした」
「・・・・・・」
「・・・・・・安室さん?」

気まずさを誤魔化すように笑顔を作れば、目の前に座る彼の表情が段々と険しいものになっていく。


「・・・・・・ないんだ・・・」
「・・・え?」
「どうしてもっと周りを頼らないんだ!何で無理をして笑うんだ?今だって怖いなら怖い、辛いなら辛いと言えばいいだろう!」
「・・・っ」

珍しく声を荒らげた彼の姿に、机の上に置いた手が小さく震える。

「悪い・・・。大声を出して」
「・・・いえ・・・、大丈夫です・・・」


そんな私に気付いたのか、彼の声のトーンが少し落ち着きを取り戻す。お互いに口を開くことなく、気まずい時間だけが過ぎていく。


ピンポーン。

そんな静けさを裂くようにチャイムの音が部屋に響く。この音はエントランスじゃない、玄関のチャイムの音だ・・・。


先程の男性の顔とあの手紙が頭をよぎり、目の前がくらりと揺らぐ。


「俺が見てくるからここにいろ」
「・・・ありがとうございます・・・」

そう言うと立ち上がることのできない私に代わり、安室さんが玄関へと向かった。





ガチャっと玄関の鍵が開く音がして、何やら話し声のようなものが聞こえてくる。

そしてこちらへと向かってくる足音が二つ。


リビングの扉が開くとそこに居たのはいつもに比べるとラフな格好、恐らく部屋着に上着を羽織っただけなんだろう。そんな服装の昴さんか立っていた。


「なまえさん・・・、怪我はないですか?」
「・・・っ・・・、昴・・・さん・・・」


ソファで縮こまっていた私の目の前に座り、目線を合わせてくれる彼。その瞳から私を心配してくれていることが伝わっていて、一度は止まったはずの涙が零れそうになる。


「コナン君から話は聞きました。気づいてあげられなくてすいません」
「・・・どうして昴さんが謝るんですか・・・っ・・・」

触れることを僅かに躊躇いながらも、そっと私の頭に乗せられた彼の手からいつもと変わらない優しさを感じ、寸のところで堪えていた涙が頬をつたう。


「・・・怖かっ・・・た・・・です・・・っ・・・」
「もう大丈夫ですよ」
「・・・ぐすっ・・・」

涙を堪えるよりも、一度流れ始めた涙を止める方が今の私には難しかった。

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