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▽ 1-2



「強いて言うなら・・・・・・、猫ですかね。なんか犬系って誰にでも優しいイメージありますし」
「確かにそれはあるかも・・・・・・」
「ほら、安室さんも皆に優しいじゃないですか?やっぱり彼氏ってなるとそれは不安になりそうで・・・「なまえさんにはそう見えてたんですね」


梓さんにそう説明していると、突然聞こえてきた声。


・・・・・・何故だろう、ものすごく後ろを振り返りたくない。


ふと頭の中に朝の占い結果がよぎる。

『発言には注意してね〜。面倒事に巻き込まれちゃうかも!』


当たってる・・・・・・!
絶対このことだ!

口は災いの元という言葉はあながち間違ってないらしい。


「あ、安室さん!もうパスタできたんですね」
「ええ、梓さんも先に食べるようにと店長が言ってましたよ」
「ほんと?!じゃあちょっと行ってきますね」


安室さんも出勤してるなら先に教えてほしかった・・・・・・、なんて目線で訴えてみてももちろん梓さんには伝わらず。

手を振りながらキッチンへと入っていく彼女の背中を見送る。


いや、お願い・・・・・・、今はこの人と二人にしないで。

そんな心の声なんて先程の目線と同様に彼女に届くわけもなく、残されたのは私とにっこり笑顔の安室さん。

何故だろう、笑顔のはずなのに彼が纏う空気がどこかピリついて見える。


「はい、どうぞ」
「ありがとうございます・・・・・・」
「冷めないうちに食べてくださいね」


目の前に置かれたのはいい匂いを漂わせているパスタ。

そして何故か隣に腰掛ける彼。


「えーっと・・・、安室さんは戻らなくていいんですか?」
「はい、今はお客さんはなまえさんだけなので。梓さんの代わりに話し相手になろうかと」
「あははー・・・、お気遣いありがとうございます・・・・・」


僕のことは気にせず食べてくださいね、と言う彼の言葉に甘えてパスタを口に運ぶ。


うん、美味しい。

美味しい・・・・・・けど!!


「あの・・・・・・、あんまり見られると食べにくいです」
「ああ、それはすいませんでした」


謝罪の言葉を口にするけれど、こちらを見ることをやめるつもりはないらしい。

いくらこの端正な顔立ちを見慣れたとはいえ、ここまでじっと見つめられると心臓に悪い。


「なまえさんの目には、僕ってそんな風に見えていたんですね」
「え?」


早鐘を打つ心臓をどうにか抑え込みながら、食事を続けていると不意に安室さんがそんなことを口にした。


「さっきの話ですか?あれは例え話で深い意味は・・・・・・」
「なまえさんが思い浮かべた猫系ってもしかして沖矢さんですか?」
「・・・っ・・・ごほ!昴さんですか?!」

突然出てきた昴さんの名前に思わず動揺してしまう。


私が思い浮かべたのは赤井さんであって昴さんではない。

それに昴さんは、安室さんと同じく愛想も良く人当たりのいい性格なので猫系とは言い難いだろう。


・・・・・・なんてそんなこと安室さんに言えるわけないよね。

「そういう訳では・・・・・。特に誰かを思い浮かべたとかはないですよ」
「なるほど。てっきり彼のことかと思いました」


すると先程までのピリついていた雰囲気が幾分か和らぐ。


「てっきり僕より彼の方がいいと言われたような気がして少し妬いちゃいました」
「何言ってるんですか!そうやって揶揄うのは良くないですよ」


ああ、本当に心臓に悪い。

思わず赤くなってしまいそうな顔を手で隠すとキッと彼に視線を向ける。


「ははっ、別に揶揄ってるわけじゃないんですけどね」


お皿下げますね、といつの間にか食べ終わったパスタのお皿を下げながら彼が席を立つ。


「安室さーん!次安室さんもまかない食べてって店長が言ってました〜」

そんな彼と入れ違いに、休憩を済ませた梓さんが店内に戻ってくる。

「わかりました。じゃあ失礼しますね」
「美味しかったです、ご馳走でした」
「喜んでいただけたならよかったです」


やっと一息つける・・・・・・。
心の中で思わず安堵のため息をつく。


「あ、そうだ。言い忘れてました」


安室さんが片手にお皿を持ったまま、空いた方の手で私を手招きする。


「なんですか?」

言われるがまま彼に近寄ると、そっと彼の顔が私の耳元に近づく。


「確かに犬は猫に比べて誰にでも愛想はいいですけど、一度主人を決めると忠実な生き物です」
「へ?」
「・・・・・・なので僕も主人が見つかれば他の人に愛想を振りまくことはないですよ」


意外と一途な人間なので、小さな声でそう言うとパチンとウインクをして去っていく安室さん。


イケメンって何しても絵になるな・・・・・・。

「・・・・・・って、そうじゃない!揶揄わないでくださいってば!」
「なまえさん?大丈夫ですか?顔真っ赤ですよ」


梓さんのその言葉でさらに頬が熱を持つのが分かる。

「梓さん!私やっぱり犬系男子は嫌です!」
「急にどうしたんですか?安室さんに何か言われました?」
「言われて・・・・・・ないです!ただ何となく改めて犬系の恐ろしさを知りました・・・」


なんだかどっと疲れた気がする・・・。

なんだろう、やっぱり昴さんに対抗意識でもあるんだろうか・・・・・。


・・・・・・それにしても安室さんが本気になる女の子っているのかな。


彼が一途に思いを向ける存在。
それを考えるとどこか胸がチクリと痛む。


いや、気のせいでしょ。

私はその痛みの意味を考えることなく、そっと胸の奥へと閉じ込めた。


────────────────


『今日のラッキーアイテムは、マトリョーシカ人形です!元気に行ってらっしゃーい』
「マトリョーシカ?!そんなのあったっけ・・・・・・」
そう言いながら朝から必死に押入れを漁る。

その日から数日間、私が某バスケ部の少年のように朝の占いのラッキーアイテムを身につけるようになったのは言うまでもない。


Fin


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