番外編 ゼラニウム | ナノ
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「#年下攻め」のBL小説を読む
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▽ 1-1


彼の心を掴むには、まずは胃袋から!なんて昔からよく聞くそんな言葉が頭の中で反芻される。


便利なこの世の中では、スマホで料理名を入れれば数多のレシピが簡単に表示される。手料理の王道と言えば、肉じゃがという自分の中の固定概念のようなものに影響されて出来上がったのは煮物・・・・・・のようなもの。



昔から人並み以上に勉強はできた。運動神経だって悪くないから、体育も汗さえかかなければ嫌いでははい。そんな私には嫌いな科目が2つだけあった。


ひとつは小学校の頃の道徳の授業。こう思いなさい。こう考えるのが正解。みたいな押し付けがましい感じが大嫌いだった。


まぁそれは置いておいて、もうひとつは家庭科だ。


ちまちま裁縫をするくらいなら買った方が早い。調理実習だって、なんの意味があるの?ってずっと思っていた。


過保護なパパは小さい時にママの真似をして包丁を触って指の先を少しだけ切ってしまった私をこれでもかってくらい心配してくれた。それ以来私がキッチンに立つことは1度もなくて、それは一人暮らしを始めてからもあまり変わらなかった。


出前って便利なものがある時代に生まれて良かったっていつも思ってた。


さすがに陣平が泊まりに来る時は、気合を入れて料理を作ったこともあったけどそれも数えるくらい。


事前に泊まりに来るって分かってたから、実家に帰ってママに助けてもらいながらおかずを作ってとりあえず何とか今まで乗り越えてきた。



さすがに結婚して一緒に住むとなると、そういうわけにもいかなくなるもので。


スマホと鍋を交互に見ながら何度目か分からないため息をつく。



近くにあったお箸でじゃがいもを刺してみるけれど、まだ固くて途中でお箸が止まる。そのくせ一緒に入れていた玉ねぎは形がないくらいにどろどろに溶けかけていてお出汁を味見してみるも薄い・・・・・気がする。




「なんで書いてある通りにしてるのにこうなるわけ?!」


誰もいないリビングに響く私の悲痛な声。リビングのソファにちょこんと座ったクマのぬいぐるみだけがその声を聞いていた。



さすがにお米を洗剤で洗うみたいな料理音痴じゃないけど、決してできるとも言えない。平たく言えば、私は家事の中で料理が1番嫌いだ。



一緒に住み始めて数日が過ぎ、その料理下手が露呈しなかったのはただ陣平の仕事が忙しかったから。


泊まり込みで仕事なんて日もあって、家に帰ってきてもお風呂に入ってすぐにまた出勤するみたいな日が続いていたからゆっくり2人でご飯を食べるタイミングがなかったのだ。



たまらなく寂しいけど、料理下手がバレなかったことだけは救われたような思いだった。



けれどそれも今日までだ。



『今日は定時で帰れると思う』


陣平から届いたそんなメッセージに飛び上がって喜んだものの、晩御飯の用意・・・!と絶望したのが数時間前だ。


疲れてる彼にこんな出来損ないを食べさせる訳にもいかない。というか料理下手なんて思われたくない。完璧なできる奥さん≠ナありたい。



鍋に入っていた肉じゃがもどきをタッパーに入れると、そのままそれを紙袋に入れる。



こうなれば誰かに教えてもらうしかない。



陣平と一緒にいれないのはめちゃくちゃ寂しいけど、これからの私達のご飯の為だ。修行よ、修行。


そう言い聞かせながら、リビングの机の上にあったメモに走り書きで陣平宛の簡単な手紙を残しさっきの紙袋と鞄を持ちクマのぬいぐるみに少しの間、さよならを告げた。

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