▽ 1-1
私は友達が少ない。
いや、その言い方は語弊があるな。昔から友達みたいな$l間は周りにたくさんいた。
それでも対等な関係で、素直に私の心をあるがままに吐露できる人間なんて極わずかだった。
陣平と付き合い出してからもそれは変わらない。
ずっとずっと大好きなだった人。
そんな人とやっとの思いで結ばれた今、誰かにこの喜びや幸せを聞いて欲しい。そう思うのは人間の性だと思う。
やっぱり話すなら陣平のことを知っている人がいいし、私のこの長年の想いを理解した上で聞いて欲しい。
そうなれば相手は自然と限られてくる。
萩原に素直に惚気けるのは何かムカつくし、零は「へぇ、よかったな」って話を流すから嫌だ。となれば相手は・・・・・、
「それでね、この前一緒に映画行ったんだ♪ 私が見たいって話したやつ陣平が覚えてくれてたの!すごくない?嬉しかったなぁ」
「そっか、それは嬉しいよね。なまえ達が幸せそうでオレも嬉しいよ」
柔らかく目尻を下げて笑うヒロ。私の惚気話を嫌な顔ひとつせず、にこにこと聞いてくれる数少ない友達。
陣平のことも知っていて、私の気持ちも知っている彼は良き話し相手となっていた。
仕事終わりの陣平を近くのカフェで待っていたら、そこにたまたま現れたヒロ。仕事の合間に軽食を食べによったらしい彼は、私に気付き向かいの席に腰掛けた。
カフェオレを飲みながら陣平とのことを話す私と、サンドイッチをかじりながらそれを聞いてくれるヒロ。ゆったりと流れる穏やかな時間が私達の間に流れていた。
*
仕事終わり。なまえが待っているカフェへと向かう。
メッセージで送られてきていたカフェに近付くと、歩道に面した窓際の席になまえの姿を見つける。ニコニコと楽しげに話すあいつの向かいには、久しぶりに見る諸伏の姿があった。
ぱくぱくと忙しく動くなまえの口元。それに合わせて楽しげに笑う諸伏。仲睦まじいその光景は、たしかに友達≠フはずなのに込み上げてくる真っ黒な感情。
なまえは基本的に喜怒哀楽が激しい。
対、男に向けられる感情は、無≠ゥ怒≠ェほとんどで。萩や零にだってあんな風に笑いかけることは基本ない。
職場の奴らとは当たり障りない程度には上手くやってるみたいだけど、今みたいな心から楽しげな笑顔を向ける相手はずっと俺だけだったはずなのに。
・・・・・・いやいや、何考えてンだよ、俺。
考え方があのバカに毒されてる。そうに決まってる。
はぁ、と小さなため息をつき、そのカフェの扉を開けた。
「あ!陣平!」
俺を見つけるとぱっと笑顔になり、ひらひらと手を振るなまえ。腹の底を渦巻いていた何かが、その笑顔で少しだけ和らぐ。
「お疲れ様。たまたまなまえに会って話し相手になってもらってたんだ。邪魔してごめんね」
「久しぶりだな。別に邪魔なんかじゃねェよ」
テーブル席に向かい合う2人。一瞬どっちに座ろうか悩んだ俺に気付いたなまえは、「あ!」と呟くと何を思ったのか立ち上がり諸伏の隣へと移動する。
「は?」
「陣平そっち座っていいよ!」
思わずそんな声が漏れた俺と、驚いたみたいな表情の諸伏。なまえだけは、そんな俺達の表情の理由なんて露知らず不思議そうに小さく首を傾げる。
そこまで広くはない席で、肩が触れそうな距離で並び座る2人。
諸伏の方は、どうすべきか考えあぐねているみたいな顔だけどなまえはそんなことに気付く気配は無い。
「ちょっとトイレ行ってくる。コーヒーだけ頼んどいて、アイスで」
「うん!分かった」
うん!じゃねェよ、バカ。まじであいつ何考えてンだよ。
1度は落ち着いたはずのドス黒い感情がまた込み上げてきた。
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