番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-2


しばらくすると店内は学校終わりの高校生や、仕事合間のサラリーマンで賑わう店内。


なまえはというと、注文をとる俺を横目で見ながらニヤニヤしていて後ろを通るときにその椅子を軽く蹴る。


「蹴ったでしょ、今!」
「当たっただけですよ」

トレーにのせた水をボックス席へと運びながら、にっこりと笑顔を返す。


その時、なまえの携帯が鳴る。
画面を見るなり笑顔になったなまえを見れば、その相手は察しがついた。


・・・・・・やっとこの無駄な緊張感から解放される。



「もしもし、陣平?」

「うん。さっき別れたとこの近くの喫茶店。ポアロってとこ!」

「そうそう、そこ右曲がったとこ」



カランコロン、と入口のベルが鳴る。




「いらっしゃいませ」
「・・・は?」


なまえとは違って、松田はきょとんとした顔こそ見せたものの俺の名前を口にすることはなかった。


完璧な営業スマイルで「いらっしゃいませ」ともう1度言えば、何か納得したような顔で奥のカウンター席に座っていたなまえに視線を向けた。



「なまえ」
「あ!陣平!お疲れさま!」

カウンター席に座った松田は、抱きつこうとしたなまえの額を片手で押さえそれを阻む。


松田が来た瞬間、なまえの興味は俺からあいつに移る。


ヒソヒソと松田の耳に何かを囁くなまえ。俺の事でも言っているんだろう。黙って話を聞いていた松田が、ニヤりと俺を見た。


その表情に嫌な予感がした。


「安室サン♪ 久しぶりだな」
「あ!さっき話してた彼氏さんですか?彼氏さんも安室さんのお友達なんですね」


キッチンから出てきた梓さんが、松田と俺を交互に見ながらそう言った。


「そうなんすよ」なんて言葉を返す松田を見て、心の中で何度目分からないため息が溢れる。


・・・・・・頼むから帰ってくれ。



「そうだ!さっき梓さんから聞いたんだけど、安室さんパンケーキ作れるんでしょ?私それ食べたい!」
「・・・・・・零がパンケーキ・・・」
「え、ゼロ?」


松田が呟いたゼロ≠ニいう言葉に、不思議そうに首を傾げた梓さん。彼女から見えない位置で、松田の足を思い切り踏みつける。


「いっ、」
「昔のあだ名ですよ。透けているってことは何もない。だからゼロって呼ばれてたんです」
「へぇ、そうなんだ!」


顔を顰めた松田を無視して、我ながら少し無理のある説明をすれば梓さんは納得してくれたようだ。


その時、「すいませーん」と声が上がり梓さんはそっちに向かう。


3人だけになったカウンター席。俺はジト目で2人を睨んだ。



「・・・・それ飲んだら帰れよ。気が散る」
「えぇ、パンケーキは?」
「お前になんか作るわけないだろ、バカ」
「ひど!聞いた?陣平!お客さんに向ける言葉じゃないよね?!」

態とらしく泣くふりをして松田の腕を引くなまえ。


「零が料理できるとか意外すぎンだろ。てかお前が接客業とか・・・・・・ははっ、やべ・・・やっぱ無理・・・!」
「分かる!愛想いいの違和感しかないもん!そういうのはヒロの方が向いてるって」
「・・・・・・お前ら・・・・・・っ、」



ケラケラと笑う2人に、思わず拳を握る。一瞬笑うのを堪えようとした2人だったけど、入口近くの女子高生が「あむぴ〜、数学分かんないから教えて!」なんて俺を呼んだものだからその笑い声は増すばかり。



「あむぴって・・・、ぷはっ、はは!ダメだ、しんど!」
「私も今度からあむぴって呼ぼうっと♪」




・・・・・・ヒロ。

このバカ2人、公務執行妨害でしょっぴけるんじゃないか?


「後で行きますね」なんて女子高生に答えながら、心の中でヒロに問いかけてみても返事なんてあるわけがない。



その後も、散々俺のことを揶揄うだけ揶揄って満足したのか「会計頼むわ」と松田が立ち上がった頃にはすでに空はオレンジに染まっていた。



「邪魔して悪かったな」
「・・・・・・二度と来るなよ」
「じゃあね、あむぴ〜!」


ぽんっと俺の肩を叩いた松田にそう言えば、なまえはまたふざけて笑う。そんななまえを見て、松田はまた喉を鳴らしてケラケラと笑う。


するりとなまえの手が松田の腕に絡み、ひらひらと手を振りながら去っていく2人を見送る。



「楽しそうな人したね、安室さんのお友達」
「・・・・・ですね」
「ふふっ、でも今日は安室さんの新たな一面を見られた気がします」
「新たな一面?」
「お友達といるときの安室さんって、いつもより少しだけ子供っぽくて可愛かったですよ♪」


褒められているのか、貶されているのかよく分からない梓さんのその言葉に曖昧な笑みを返す。


「それにしてもあの2人すごくお似合いでしたね!」
「そう見えましたか?」
「はい!2人とも笑った顔がそっくりだったもん」


言われてみれば、俺を揶揄う2人の悪戯っぽい笑い方はよく似ていて。長く付き合っていると、恋人同士は似てくるという。


きっとそれはあの2人も例外じゃないのかもしれない。



「・・・・・・たしかにお似合いなのかもしれないな」



ただ安室≠フ姿で会うのは、二度とごめんだ。




Fin


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