番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


※ 降谷さん視点のお話になります。色々と設定はゆるっとしてますので、苦手な方はご注意ください。



「いらっしゃいませ」

その言葉と共に入口に向けた笑顔は、ピキリと固まる。



「・・・・・・え、れ・・・っ・・・」


零。


その名前を呼ばれる前に、慌ててその口を片手で塞ぐ。


ランチタイムを過ぎた店内は、最後の客が帰ったところで梓さんも買い出し中。それが唯一の救いだった。



「・・・・・何でここにいるんだよ、なまえ」

ため息混じりにそう尋ねると、それはこっちのセリフだと言わんばかりにジト目を向けられる。



「陣平待ち。パンケーキ食べに行く約束してたんだけど、急に仕事だって陣平が呼び出されたから待ってろって言われたの。外暑いからどこかで時間潰そうと思って」
「・・・・・・あいつがパンケーキねぇ」


あの男がパンケーキ。何とも似合わない組み合わせだ。


というか、そもそも松田がなまえと続いていることの方が俺からすれば似合わない組み合わせでしかない。



口を開けば松田松田とうるさかった学生時代のなまえ。決していいとはいえないその性格は、短気な松田と相性がいいとは思えなかった。


警察学校でその事実を知った時は驚いたし、そんな2人が今も別れずにいることには現在進行形で驚いている。


「てか零は何でそんな格好してるわけ?警察官辞めたの?」
「辞めてない。ていうか、その名前で呼ぶな。色々あるんだよ」


ポアロ≠ニ書かれたエプロンを指さしたなまえ。全ての事情を説明する訳にはいかないが、すんなりとその名前で呼ぶのを許せるはずもない。



降谷零の名前と、俺が警察官であることは喋るな。


そう言うと、なまえはニヤりと口元に意地の悪い笑みを浮かべた。



「お願いしますって言ってくれたら考えてあげる♪」



・・・・・・・・・この性悪女。

心の中で悪態をつきながら、ここにはいない幼馴染みを恋しく思う。なまえが松田以外で唯一素直に言うことを聞くのがヒロだから。


あいにくヒロみたいに優しく諭すなんて、こいつ相手に出来るわけがない。



「というか松田のこと待つならここじゃなくてもいいだろ」
「ヤダ♪ なんか楽しそうだし」
「っ、お前・・・」


入り口でそんな問答をしていると、カランコロンとベルが鳴りドアが開く。


2人同時に音の方へと視線を向ける。



「ただいま〜。あ、いらっしゃいませ!」

片手に大きなスーパーの袋を持った梓さんが、俺の影にいたなまえの存在に気付き笑顔を作る。



・・・・・・最悪だ。


「安室さんのお知り合いですか?」
「・・・・いえ、彼女は・・・っ、「はい♪ 安室さん≠フ学生時代の友人です」


客と店員にしては近い距離にいた俺達。交互に顔を見た梓さんは不思議そうに小さく首を傾げた。


否定しようとした俺の言葉を遮り、無駄に整ったその顔でにっこりと笑うなまえ。態とらしく強調された安室≠フ名前にぴくりとこめかみに青筋が浮きそうになった。



「えー!安室さんのお友達が来るなんて初めてですよね!学生時代の安室さんのお話聞かせてください♪ 」
「もちろん!お邪魔しまーす」


お前はそんなに人あたりのいいキャラじゃないだろう。にっこり笑顔を崩さないまま、梓さんにカウンター席へと案内されるなまえに心の中で毒を吐く。



頼むから松田・・・・・・、早くこのバカを迎えに来てくれ。

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