番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-2


━━━━・・・・・・ 澄み渡る雲ひとつない青い空。ステンドグラスに反射した太陽の光がキラキラと輝く。





「陣平ちゃんが人のモノになるなんて、俺泣いちゃいそう」
「・・・・・・キモいこと言ってンなよ、アホか」
「ははっ、冗談だよ。そんな冷たい目で見んなって♪」


親と入れ替わりで控え室へとやって来た萩。ケラケラと笑いながらふざけたことを言ってくるのは、いつもと変わらない。



「なまえのことだから、ウェディングドレス選びに陣平ちゃん引っ張り回すと思ったけどそうでもなかったな」
「むしろハードル上がったわ、そのせいで」


両親への挨拶が終わり、決めることはたくさんあった。ウェディングプランナーとの話の途中で、ファーストミート≠チてもんを知ったなまえはそれがいいと言い出した。


なまえは家でもネットに転がってる他人様のファーストミートの動画を見ては、感動して泣き出すもんだから俺の中でまぁハードルがめちゃくちゃ上がってるわけで。



「ちなみに俺は、なまえのウェディングドレス姿を見て感動するお前を撮影する係で早めに呼ばれたんだよね」
「は?何だよそれ」
「なまえに動画撮影頼まれたんだよ」
「・・・・・・あのバカ・・・、」


ひらひらとスマホをチラつかせる萩に、頭を抱えたくなった。お前ら普段はぶつかるくせに、何でこういうときだけ結託してるんだよ。


あいつのウェディングドレス姿を楽しみだと思う気持ちはある。でもネットの奴らみたいに、感動を表現するのは俺は苦手だから。


「へぇ、いいんじゃね?」なんて言った日にゃ、あいつがブチギレるのは目に見えていた。



その時、コンコンとドアをノックする音が響く。


「ご準備大丈夫そうですか?」
「はーい、バッチリでーす」


俺の代わりに返事をした萩が、ドアを開ける。


案内されたのは、数名のスタッフ以外誰もいない式場の真ん中にある階段だった。赤い絨毯の敷かれたその場所。「映えるからここがいい!」と初めてここに来た時に、なまえがこの場所を選んだ。



「じゃあ、親友の俺からプレゼントをあげましょう♪」
「は?」
「なまえからの手紙。ここで陣平ちゃんに渡して読んでもらってって預かったんだよね」
「・・・・・・なんだよ、それ」
「ほら、早く読んでやれって」




萩がスーツの内ポケットから取り出した真っ白な便箋。真ん中に少し丸っこい字で陣平へ≠ニ書かれている。



・・・・・・こんなの、反則だろ。




周りに人がいることとか。ニヤけた萩が俺を見てることとか。手紙を読み進めるにつれて、そんなことどうでもよくなってくる。



背後に感じた人の気配。

肩を叩かれる。小さく息を吐いて、そのまま素直に振り返った。






この日のために選んだウェディングドレス。


真っ白な王道のAラインのそのドレス。ふわりと緩やかに広がるスカートは文句なしに可愛い。


ゆっくりと階段を上る。

一生に一度。色んな思い出が頭に過ぎる。


でもネイビーのタキシードを着た陣平の背中を見た瞬間、頭が一気に真っ白になる。その背中に飛びつきたい気持ちをどうにか堪え、プランナーさんに言われた通りその肩をそっと叩く。


ゆっくりと振り返った陣平の手には、萩原に渡してと頼んでおいた手紙があって。


会うと私は、好き∴ネ外の言葉を上手く伝えられないから。だから気持ちを文字にして綴った。少しでも陣平に伝わるように。




「じゃーん!可愛い?」


少しだけふざけて笑ってみる。だって陣平はこういうの苦手だから。それでも私がやりたいって言ったから付き合ってくれた。だからそれだけで満足だったの。


ネットで見た動画の人達みたいに、「綺麗だよ」って微笑んでくれたり、ましてや感動して泣くなんてあるわけない。









そう思ってたのに・・・・・・、















「・・・・・・っ、」
「・・・・・陣平・・・?泣いてる・・・の?」
「っ、泣いてねェ」

片手で目元を隠して私から視線を逸らした陣平。指の隙間から見えた瞳には、たしかに涙が浮かんでいて。


予想していなかったその涙に、心臓がきゅんと締め付けられる。



ゆっくりと近付き、そっと顔を隠していた手を退ける。少しだけ赤い目と視線が交わる。目尻に溜まっていた涙を指で拭う。


・・・・・・陣平が泣いてるとこなんて初めて見た。




毎日、毎日、何年経っても好きが更新されていく。


これ以上ないってくらい好きだっていつも思って眠りにつくのに、朝起きてその顔を見ると昨日よりも好きだなって思うの。




「なまえ」
「・・・・何?」
「ドレス似合ってる。綺麗だ」



さらりと告げられた言葉に、今度は私の目に涙が浮かぶ。


そんな私を見て、「バカ、泣くな。化粧よれるぞ」なんて陣平は小さく笑う。



「っ、化粧よれても可愛いもん」
「だな。お前はどんなでも可愛いよ」
「〜〜っ、陣平が陣平じゃない!」


普段なら「アホか」とか「自分で言うな」とかって言うくせに。

今日に限って素直な陣平は、心臓に悪い。



耳元に唇を寄せると、陣平はゆっくりと口を開いた。




愛してる。これから先もずっと、な



心臓がうるさい。きっとこれ以上幸せを感じたら、爆発しちゃうんじゃないかって本気で思った。



「泣くなよ、バーカ」
「っ、陣平が悪い!!」
「へいへい。俺が悪いな、ごめんごめん」


好き。大好き。何度言っても足りない。


一生かけてそれを伝えていくから。



覚悟しとけ、ばーか!


────────────────



病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?


言葉にすれば1分にも満たないそれを、一生かけて実現していくのはきっととても大変で。


でも私の人生に陣平がいないなんて考えられないから。



「誓います」


それぞれの誓いの言葉が、厳かなチャペルに響く。


触れるだけの口付けは、永遠の愛を誓うもの。


涙を流している両親。忙しいのに駆けつけてくれたヒロと零。ブーケトスでブーケを受け取った香織はニコニコと笑っていた。



そして、





「おめでと、2人とも♪」


ずっと昔から誰よりも近くで私達を見てきた萩原。


ムカつくくらいの笑顔を私達に向けてくれる。



「萩原!」
「ん?」
「1回だけしか言わないからね!!」


萩原がいなかったら、私の心はきっと折れていたから。今の私達がいるのは、間違いなく萩原の存在が大きい。


・・・・・・絶対言ってなんかやらないけど!!


「ありがとね」
「ははっ、なまえが素直だ♪ 明日は雨だな!」
「っ、はぁ?やっぱりさっきのお礼なし!!」
「残念でしたー、もう聞いちゃったもんねぇ」



「ったく、お前ら今日くらい仲良くしろよ」


呆れたみたいに笑った陣平。その手はしっかりと私と手と繋がれていて。


ずっと望んだ幸せがそこにあった。


Fin


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