番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-3


大きな瞳がゆらりと不安げに揺れる。


こうなったらなまえは、なかなか素直に俺の言うことを聞きてはくれない。


ため息と共に、後ろ手に後部座席のドアを閉める。


決して広くはない車内。するりと、なまえの肩のリボンに触れるとびくりと身体に力が入る。



「いい加減、自分が目立つの分かれよ」
「っ、」
「だから嫌だったんだよ、海連れてくンの。お前絶対気合い入れてくるじゃん」


このバカには正直に気持ちをぶつけなきゃ、変に拗れちまうのは短くない付き合いの中で嫌というほど分かっていた。


そのまま、トンっとなまえの肩に頭を預けると恐る恐る俺の背中に回された手。


素肌に触れるその手の感触に、自然と身体が熱を持つ。



「・・・・・・可愛いと思ってくれた?」
「・・・・・・あぁ、思ってるよ。だからパーカー着とけって言ってンの」


ここまで素直に言えば、こいつも頷いてくれるはず。









けどやっぱりこの女はどこまでも俺の思う通りに動いてはくれなくて。

















「でもパーカーはヤダ。パーカーなんか着てたら、陣平のことエロい目で見てくる女に負けるもん。今日だけは負けられないの!」




はぁ、と深いため息と共に頭を抱えたくなった。


エロい目って何だよ、そもそも。てか勝ち負けって何?そんなことこいつに聞いても、火に油を注ぐだけだろう。



ここまで言って聞かないなら・・・・・・、




「・・・・・・聞かなかったお前が悪いからな」






ぽつりとそう言うと、陣平はそのまま私の水着の肩のリホンをずらし鎖骨に唇を寄せた。


「・・・・・・んっ・・・・・・、」


鎖骨を這う舌の感触に思わず声が洩れる。そしてそのままそこをきつく吸うと真っ赤な跡が残される。


「・・・っ、」
「お前が悪い」


それだけ言うと陣平はその跡の隣に歯を突き立てる。



「いっ、」


皮膚に突き刺さるその感触に、声を上げるもそれは陣平の右手によって塞がれる。


その噛み跡をなぞるように舌が皮膚を舐める感触。ぞくぞくと快感が背筋を駆け上がる。

思わず陣平の背中に回していた手に力が入る。


ちゅっという態とらしいリップ音と共に離れた唇。


べぇ、と赤い舌を覗かせた陣平が少し涙目の私を見下ろしながら意思悪く笑う。



「パーカー、着るよな?」
「〜〜っ、陣平のバカ!」


陣平の手からパーカーをひったくって、そのまま羽織るとチャックを首元まで上げる。


身体の熱が顔に伝染して、鏡を見なくても真っ赤なことが分かった。




「・・・・・・戦闘力で他の女に負ける・・・」

ため息混じりでそう呟きながら、車を降りて萩原達の元へと向かう。


そんな私を見た陣平は、少し強い力で私の腕を引き寄せ耳元に顔を寄せた。



「他の女が俺をどう見るかなんて興味ねェよ。俺がそういう目で見るのはお前だけなんだからアホなこと考えンな」


それだけ言うと軽く耳朶を齧る陣平。その感触がさっきまでのやり取りを思い出させて、身体の熱がまた蘇ってくる。



「ねぇ、陣平」
「何だよ」
「陣平って意外と私の事大好きだよね」
「っ、うっせェ!調子乗んな!」


さっきの仕返しみたいに、べぇと舌を出して笑うと軽く額を小突かれる。


こんなくだらないやり取りが何よりも幸せで。緩む頬を抑えることが出来なかった。



────────────────



戻ってきた松田となまえの間には、さっきまでのピリついた雰囲気はなくて。それにほっと安堵する。


なまえが着ている大きめのパーカーを見れば、2人のやり取りは察しが着いて。同じくそれを分かっているであろう萩原は、ニヤけた顔で松田に声をかけたもんだから思いっ切り蹴られていた。



「何だか雰囲気変わったよな、松田の奴」

隣にいた零がそんなことをぽつりと呟く。


「昔はなまえの方が一方的に好きだ好きだってうるさかったけど、何だか今は・・・・・・、」
「ははっ、それ以上は言ったら松田が拗ねるからやめときなよ、零」


色恋沙汰に疎い零の目にもそう見えるんだから、きっとそういうこと≠ネんだろう。


Fin


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