番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-2


陣平に近付く女の戦意喪失作戦(勝手にさっき決めた)の為に、私はあれやこれやと準備に勤しんだ。


少し伸びかけていたネイルを新しいものに変え、美容院に行って少し明るめの髪に染めいつもより少し奮発したトリートメントをして貰った。そのおかげで髪は普段にも増してサラサラだ。


水着も新しいものを香織と一緒に見に行って、彼女が1番可愛いって言ってくれたものに新調した。



用意はバッチリだ。


当日、陣平より早起きした私は朝から鏡の前で念入りにメイクを施す。念入りに塗った日焼け止め。水に負けないようにウォータープルーフのアイライナーとマスカラ。最後に化粧崩れ防止のミストを吹きかければ完璧だ。


高い位置で結んだポニーテールも夏らしくて文句なしに可愛い。



そんなことをしていると、寝室から欠伸をしながら出てきた陣平。寝起きのせいなのか、その表情はやっぱり少し不機嫌で。



「おはよ!陣平も早く用意しなきゃ待ち合わせの時間遅れるよ!」
「ん、」


現地集合だから、あと30分くらいで家を出なきゃ約束の時間には間に合いそうにない。


わしゃわしゃと前髪を乱した陣平と鏡越しに視線が交わる。


じっと私を見るもんだから「何?」と聞いてみると、眉間に皺を寄せたまま「お前その頭で行くの?」とだけ聞かれた。


「うん。だって髪を下ろしてたら濡れるし」
「まぁそりゃそうか。・・・・・・顔洗ってくるわ」


変なの。

顔を左右に傾けてみるも、髪型に変なところはない。



洗面所から戻ってきた陣平は、目も覚めたのかいつも通りだった。







約束の時間、海に着くと俺以外のメンバーは揃っていた。


「久しぶりだな」なんて挨拶もほどほどに、海の家に着替えに向かう。



「松田、体調でも悪いのか?」
「別に。そんなんじゃねェよ」


やっぱりどこか不機嫌な陣平ちゃん。それに気付いた降谷ちゃんが声を掛けるも、まぁ素直に理由なんて話すわけがない。


そんな2人を見ながら笑いを噛み殺していると、隣にいた諸伏ちゃんが声をかけてくる。


「何かあったのか?松田の奴」
「可愛いヤキモチだね、多分」
「ヤキモチ・・・?・・・あぁ、なまえか」

不機嫌の理由を察した諸伏ちゃんは、くすりと小さく笑う。


パッと見だとなまえの方が圧倒的に陣平ちゃんを好きに見える2人。でも長く2人を見ていると、そうでもなくて。むしろ陣平ちゃんは、素直じゃないけど随分と分かりやすくなったと思う。



「色々面白くなりそうだなぁ♪」
「ははっ、あんまり揶揄っちゃダメだよ」


諸伏ちゃんとそんな話をしながら着替えを済ませ、外に出るとちょうど女子更衣室の近くになまえの姿を見つけた。



チラチラと行き交う男達の視線を集めるその姿。真っ白な肌によく映える深い青の水着。肩の大きめなリボンがひらりと風に揺れる。


「〜〜♪ こりゃまた絶景だ」
「・・・・・・怒るぞ、萩」
「ははっ、冗談だよ」


口笛混じりにふざけてそう言えば、隣にいた陣平ちゃんの低い声が地を這う。舌打ちをひとつこぼすと、そのままつかつかとなまえに近付く陣平ちゃん。


ホント、分かりやすい奴。


諸伏ちゃんも同じことを考えているのか、笑いを噛み殺していた。





間違いなくこの海水浴場にいる女の中で、私が1番可愛い。そう思うのに、つかつかと私に近付いてくる陣平はさっきまでより眉間の皺が深くて。


腕を掴まれた瞬間、思わず1歩後ろに体を引いてしまう。



「ちょっと来い」
「っ、」


そのまま腕を引かれ、連れていかれたのは陣平の車。後部座席に押し込まれた私は、そのまま車に置いていた陣平のパーカーを投げられる。


「それ着とけ」

目も合わそうともせず、ぶっきらぼうなその言い方にカチンときた私は陣平を思いっ切り睨む。



「ヤダ!無理!せっかく新しい水着買ったのにパーカー着たらダサいもん」
「そんな格好でいられるとか、俺の方が無理」
「は?何がダメなわけ?可愛いじゃん!」


頭ごなしに否定されて腹が立つ。誰のために可愛くしたと思ってるの?全部全部陣平に可愛いって言ってもらいたかったからだもん!(不純な動機もあったけど・・・、)


呆れたみたいに吐き捨てられたため息に、目の奥がツンとなった。

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