番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


『飲み会行ってくる・・・。行く前から早く帰りたい無理!ちゃんと家で待っててね!!』


珍しく定時で終わった仕事。携帯を開くとなまえからそんなメッセージが届いていた。


社会人になってから、昔より性格が丸くなった(表面上だけ)なまえはそれなりに人付き合いってもんをするようになった。


昔みたいにあからさまに自分以外の人間を馬鹿にすることもなくなったし、男相手でも最低限の愛想を振りまけるようになった。


あいつも大人になったなぁって思う反面、少しだけ・・・本当に少しだけどそれを面白くないと思ってる自分がいることも事実で。


大学の頃は飲み会なんて参加したがらなかったくせに、と小さくため息をつく。



なまえの家であいつが帰ってくるのを待っていると、机の上に置いていた携帯が鳴る。




着信 萩原 研二


時計を見るともう23時を回ったところ。こんな時間に萩から連絡なんて珍しい。



「もしもし、」
『あ、陣平ちゃん?遅くに悪ぃな』
「別にそれはいいけど。何かあったのか?」
『何かあったってか、まぁあるっちゃあるんだけど、』

寝転がっていた体を起こしながらそう尋ねると、どこか歯切れの悪い萩。


「何だ、それ。訳分かんねェ」
『なまえのことだよ。あいつ今飲みに行ってんだろ?』
「何でお前がそれ知ってんだ?」


予想していなかったなまえの名前に、ぴくりと眉が上がる。


『俺んとこになまえから電話きたんだよ。酔いすぎたから迎えに来てくれって』
「・・・・・・は?」
『怒んなって。まだ行ってねぇから』


電話の向こうの萩は、俺の機嫌が一気に急降下したのを察したのか慌てて言葉を付け足す。


なまえが萩にそんなことを頼む理由が分からねェ。諸伏とかならまだしも、なんで萩なんだ?てか、俺が仕事終わってんのは知ってるんだからこっちに電話してくりゃいいだろ。


あいつの思考回路が理解できなくて、ふつふつと込み上げてくる怒り。


だいたい潰れるまで飲んでんじゃねェよ。



『酔い潰れたとこお前に見られたくなかったんだって。んで消去法で俺んとこかけてきただけだろ』
「・・・・・・だったら迎えに行ってやれよ」
『はぁ、んなガキみたいなこと言うなって。何のために俺がわざわざお前に電話したと思ってんだよ』
「・・・・・・、」
『駅前の×××って店だってよ。さっさと行ってやれ』
「なんで俺が・・・っ、」
『じゃあ俺が酔っ払ってるあいつ迎えに行っていいの?お前がいいなら今から行くけど?』
「っ、」


煽るみたいな萩の物言い。カチン、ときて思わず舌打ちをした。






気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!


あれやこれやと理由をつけて、3回連続で断り続けた会社の飲み会。さすがに今度ばかりは断り切れなくて、しぶしぶ参加したのが間違いだった。


ニコニコへらへらしてるのは疲れるし、お酒を言い訳に無駄に距離の近い男達。お酌をしろと上から目線で言われるのもムカつくし、上辺だけの女同士の会話も面倒臭いしかない。


こんなことなら早く帰って陣平と一緒にいたい。


そんな苛立ちを誤魔化すみたいに勧められたお酒を飲み続けていたら、気が付くと完全に出来上がっていた。


呂律は上手く回らないし、足元はふらつく。



「みょうじさん大丈夫?帰り心配だし家まで送るよ」
「大丈夫ですよ。知り合いに迎えに来てもらうので」
「えー、もしかして彼氏?」


先輩の男性社員のそんな言葉を笑顔で躱し、トイレに向かう。


鏡に映る顔は、酔っ払ってるせいもあって全然可愛くない。化粧だって少しよれてるし最悪だ。


気持ち悪さのせいで化粧を直す元気もない。


洗面台に手を付き、はぁと大きなため息をつく。



早く帰りたい・・・・・・。

でもあの感じだと1人で帰ると誰かにしつこく絡まれそうだ。かといって迎えに来てくれる人なんて陣平しかいないけど、こんなヨレヨレの姿見られたらそれは違う意味で死ねる。


他に迎えに来てくれるような友達といえば、ヒロくらいだけどさすがに仕事が忙しいって聞いてるしこんなこと頼めるわけもない。


零も同じ理由で却下だ。


となれば残るのは1人。

あいつになら今のボロボロの姿を見られても、まぁ別に気にならない。


『はいはーい♪ なまえから電話かけてくるなんて珍しいな』
「萩原今何してんの?」
『家帰ってきて飯食い終わったとこだけど、どした?』
「職場の飲み会来てるんだけど、飲み過ぎてやばい・・・」
『ははっ、お前も飲み会とかちゃんと参加するんだ!えらいじゃん』
「笑うな、馬鹿。まじで気持ち悪い・・・無理」
『そんなに飲んでんの?大丈夫か?』


萩原の揶揄うような言葉に返す元気もなくて。そんな私に電話の向こうの萩原の声も真面目なトーンに変わる。


「わりと真剣に無理、」
『どこで飲んでの?てか陣平ちゃんは?もう仕事終わってんだろ、あいつ』
「駅前の×××ってとこ。陣平にこんなボロボロなとこ見られたらそれこそ死ねる、無理。だから萩原に頼んでんじゃん」
『なるほどな。用意したら迎え行くからとりあえず水飲んどけよ』
「ありがと、」


電話を切り、もう1度深いため息をつく。


こういう時に吐けたら楽なんだろうけど、中々それもできなくて。大学の頃から酔い過ぎた時は、水飲んで気持ち悪さが和らぐのを待つしかなかった。


だからこそ飲み過ぎないようにしてたのに。



「・・・・・・陣平に、会いたい」


やっぱりこんな時でも会いたいのは、陣平しかいないんだ。

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