▽ 1-1
※ 本編後、結婚した2人に子供がいる if のお話です。苦手な方はご注意ください。(子供の名前変換なし)
「〜〜っ、可愛い〜!!!」
「わんわん!かわいい!」
目をハートにして叫ぶなまえと、嬉しそうに笑う蓮。
2人の視線の先には、零の腕に抱かれた1匹の犬。
「明後日また引き取りに来る。すまないがよろしく頼む」
「ワン!」
まるで零の言葉が分かっているかのように鳴くその犬は、真っ白なしっぽをぶんぶんと振る。
零が仕事で家を空けるから飼っている犬を預かって欲しいと言われたのが数日前。なまえに聞くと、犬好きなアイツは二つ返事で頷いた。
そして週末の朝、飯やらおもちゃやらを詰め込んだ鞄を片手にその犬を連れてきた零。
てかコイツが犬とか飼うってあんま想像できねェな。
「松田もせっかくの休みなのに悪いな」
「ふぁ〜、気にすんな」
欠伸を噛み殺しながら、零の持っていた鞄を受け取る。
ハロって名前のその犬を零から受け取ったなまえはにこにことそいつの頭を撫でる。
「がぶってする?」
「そーっと触ってごらん?上からじゃなくて、こっちから」
「ママちゃんとみててね?がぶしないように!!」
「うん。大丈夫だよ」
いざ近くに来るのと少し怖いのか、恐る恐るハロに手を伸ばす蓮。小さなその手がハロに触れると、白いしっぽはぶんぶんと勢いを増す。
懐っこい犬だなぁなんて眺めていると、隣にいた零が何やら目をぱちくりとさせていることに気付く。
その時、零の携帯が短く鳴る。
「そろそろ行かなきゃいけない。悪いが頼むよ」
「ヒロも一緒に仕事なんだよね?」
「あぁ。迎えに来る時は一緒に来ると思う」
「楽しみ!気をつけてねってヒロに伝えといて。あ、あと零も」
「俺はおまけかよ」
相変わらずな2人のやり取り。
廊下におろされたハロは、リビングへと走っていく。その後ろをぺたぺたと追いかける蓮。小さい2人の足音に自然と目尻が下がる。
「じゃあ、行ってくる」
「零のこと下まで送ってくるわ」
ひらひらと手を振ると、蓮達の背中を追いかけるなまえ。零と一緒に外に出ると、眩しい朝日に思わず目を細める。
エレベーターを待っていると、零が口を開いた。
「あぁやって見ると本当に家族≠ネんだなって思うよ」
どこか穏やかで柔らかな口調。開いたエレベーターに乗り込み、1階のボタンを押す。
「なまえと蓮か?」
「そうだ。俺はまだ結婚を考えるような相手はいないから分からないけど、少しだけ憧れるよ」
「憧れなぁ。そういうもんかね」
「会う度に大きくなる蓮を見ていると、松田やなまえが立派に親をやってるんだなって感動する」
「感動ってまた大袈裟な」
1階についたエレベーターの扉が開く。マンションの前に停められた白い車。
「相変わらず好きだな、この車」
「同じ≠セからな。カッコいいだろ」
バン!と勢いよく閉まるドア。エンジンをかけると、運転席の窓が開く。
「気をつけろよ、零」
「あぁ、任せろ。ハロのこと頼むよ」
走り去っていく白い車を見送りながら、ぐっと両手を宙に伸ばした。
*
「悪い、ヒロ。遅くなった」
「いや、オレも今来たところだよ。ハロは大丈夫だったか?」
ヒロとの待ち合わせ場所につき車を止める。助手席に乗り込んできたヒロは片手に持っていた携帯をポケットに入れながら小さく首を傾げた。
いつもハロを任せている風見がどうしても今回は予定があり世話を頼めなくなった。
まだ小さい蓮のいる松田に頼むのもな、とも思ったが二つ返事で了承してくれたアイツには感謝しかない。
「あぁ。さっき松田の家に連れて行ってきた」
「そっか。なまえと蓮、元気だった?」
何かと忙しい俺達は、なかなかなまえ達に会うことはできない。というか、人様の家庭にしょっちゅう飯を食いに行っている萩原がおかしい気もするが。
それでも数ヶ月に1度は、松田を含め皆で会う機会を作っていたから蓮の成長は嬉しいもの。
「またデカくなってた。松田にそっくりだったよ」
「ははっ、可愛いよな、ホント」
まさか俺達の中でいちばん最初に結婚するのが松田だとは思っていなかったし、その相手がなまえだというのも驚きだった。
あの2人が結婚して夫婦になって、蓮が生まれて家族が増えた。
「松田達を見てたら、少しだけ家族≠チてものに憧れるよ」
「ははっ、零がそんなこと言うなんて珍しいね」
「まぁまだ俺達には、程遠い世界だけどな」
「今はそんな幸せな家族が平和に過ごせるこの国を守ることの方が大切だしね」
そう、ヒロの言う通りだ。
遠回りでもいい。
蓮みたいな子供が幸せであれるように。
今は目の前の任務に全身全霊で取り組むだけだ。
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