番外編 ゼラニウム | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▽ 1-2


それから数日後。


期間限定の遅番のシフトも無事に終わり、また早番のシフトに戻った。



今朝もいつものようにミルクティーを買いに来た彼女は、変わらず目の保養で。神様、仏様、ありがとうございます。あの人のおかげで今日も1日頑張れる気がする。相変わらず今朝も無表情を極めていたけど、「ありがとうございます」って言ってくれる一言で幸せになれる気がするんだから、美人ってのはホント偉大だ。


気が付くと店の外がオレンジの夕焼けに染まり始めていて。退勤時間がきた俺はタイムカードを押し、制服から私服に着替えると店を出る。


晩飯何にしよ。スーパーでも寄って惣菜にしようか、なんて考えながら向かったのはコンビニからそう遠くない場所にある小さなスーパー。


めんどくさいし温めるだけのもんがいいよな、って惣菜コーナーを眺める。ふと隣を見れば、スーツ姿の男の人が俺と同じように惣菜コーナーを見ながら悩んでいて。


仕事終わりなんだろうな、この人も。分かるよ、仕事終わりって料理する気にもなれねぇよな。


見ず知らずの男の人に謎の親近感を勝手に感じていると、不意に後ろで立ち止まった人の気配を感じた。



「ヒロ?」

呼ばれた名前に振り返ったのは隣にいた男の人。釣られるみたいに俺もちらりと後ろを見れば、そこにいたのは今朝コンビニで見たのと同じ格好をしたミルクティーの彼女がいて思わず日替わり弁当に伸ばしかけた手がピタリと止まる。


慌てて視線を惣菜コーナーに戻したけれど、耳は完全に隣の2人の会話に持っていかれていて。



「なまえも買い物?」
「うん。晩ごはん何にしようかなーって。ヒロがお惣菜って何か意外かも」
「普段なら作るんだけどね。ちょっと今日は作る元気ないからお惣菜で済ませようかなって思ってさ」


おいおい、さらっと言ってるけど普段から料理する男って中々ポイント高くね?しかもさっきはちゃんと顔見てなかったから気付かなかったけど、この前のイケメンに負けず劣らず整った顔してるし。


男前で料理も出来てって・・・。俺何やってんだろ、ホント。



「仕事忙しそうだもんね、お疲れさまだよ。あ!それならうちに食べに来たらいいじゃん!」
「なまえのとこに?」
「うん。今から作るから少し待たせるけど、ヒロが時間あるなら!」
「じゃあお言葉に甘えようかな。久しぶりにゆっくり話したいしね」
「わーい♪ 私もヒロと話すの久しぶりだから嬉しい!」


あれよあれよと纏まる会話。彼女が持っていたカゴをさらりと奪うネコ目の彼のスマートさに思わず俺の方が見惚れてしまう。


てかあの背の高いイケメンといる時と違って、今日の彼女はえらく上機嫌だ。笑ってるとこ、初めて見たし。



こっちが彼氏?いや、でも久しぶりって言ってたし・・・。でもこんな時間に家に招く間柄って・・・、ただの友達でそんなことあるか?


俺がそんなことを考えている間に、2人は惣菜コーナーを離れ野菜が並ぶ売り場の方へと消えていく。


仲睦まじい後ろ姿は、やっぱりお似合いに見えて。



美人を取り巻く系統の違うイケメンとの関係に1人頭を悩ませていると、隣から来たおっさんにラスト1個だった日替わり弁当をかっさらわれてしまった。・・・・・・くそ、今日の日替わり弁当唐揚げだったのに・・・。






二度あることは三度あるってのはよく聞く言葉だけど、実際それは俺の身にも起こることなわけで。



「零〜!アイスも一緒に買って!」
「この時間に食べたら太るぞ」
「うるさい。その分運動するからいいの」


久しぶりの遅番の勤務。目の前にいるのは、ダボついたTシャツを着たミルクティーの彼女。ショートパンツを履いているのか、Tシャツの裾から覗く白い足に目がいきそうになるのは男のサガだと思う。そしてその隣には、彼女に見劣りしない謎の金髪イケメン。


あの長身イケメンといる時とも、ネコ目のイケメンといる時ともまた少し雰囲気が違う。けれど親しげなやり取りに違いなかった。


レジ台に置かれた商品をバーコードにかざしながら、彼女が持ってきたハーゲンダッツのアイスを袋に入れる。


会計を済ませた彼は、「ありがとう」と俺に一言告げると袋を手に取る。


・・・・・・やべ、カッコいい。てか日本語喋ってたけど、あの見た目的にハーフとかだよな?瞳も青かったし。



「それよりなまえ。お前ひとりの時にコンビニでアイス買うのはやめろよ」
「なんで?」
「はぁ。防犯意識がなさすぎる。いい加減に自分が目立つことをお前は知るべきだ」



たしかによく聞くよな。女の人がコンビニでアイスとか買うと、近所に住んでるのがバレるからよくないって。


彼女くらいの美人なら何もしてなくても目立つし、人目を引くから彼が心配するのも頷ける。



・・・・・・てかあの金髪イケメンは誰だ?!?!



いくら何でも男の登場人物多くね?それに全員もれなく系統違いのイケメンってどういうこと??



どの男の人と並んでもびっくりするくらい絵になるけど!!!それでも多すぎるだろ!!!


もしかしてあの女の人・・・、実は魔性の女とか??



いやいや、そりゃ俺があの見た目なら絶対に色んな男侍らせて遊びたいけど・・・!!!



そんな感じで俺の頭の中はパニック状態で。もちろん答えを彼女に聞けるはずもない。



けど数日後、俺はその真相を知ることになる。






急に遅番のシフトの奴が辞めたせいで、ここ最近はずっとこの時間の勤務が続いていた。


ミルクティーの彼女はほとんど毎朝このコンビニに来ていたけれど、夜ともなればそういうわけにもいかない。彼女の姿を見たのは、あの金髪イケメンと一緒にいたあの日が最後だった。



時刻はもう少しで24時を過ぎる。繁華街近くのコンビニでもなけりゃ、この時間帯は基本的に暇だ。



店内の清掃をちまちましていると自動ドアが開く。



もしかして、と思って入口の方を見れば予想的中。ミルクティーの彼女と、その隣には黒のタンクトップにグレーのスウェットを着た男の姿。・・・・・・初めて見る奴だ。


欠伸を噛み殺しながらカゴを手に取る彼の腕に、自分の腕を絡めながら隣をぴったりと引っ付いて歩く彼女。


その表情は今までに見たことないくらいキラキラとした笑顔で。・・・・・・あんな顔で笑うんだ、あの人。



「暑いから離れろ。歩きにくい」
「やだ!コンビニの中エアコン効いてるから暑くないもん!」
「てか家でアイツらと待ってりゃよかったのに。酒買うだけだし」
「陣平いないと無理だもん。コンビニで陣平が他の女に声掛けられたらやだし」
「バーカ。ンなことあるわけねェだろ」


酒が入ってるのか声が大きい彼女。その声は静かな店内によく響く。どっからどう聞いても甘えるみたいな声のトーンに関係ない俺の心臓がうるさくなる。


荒っぽい口調とは裏腹に、彼が彼女の腕を振りほどくことはなくて。くしゃりと頭を撫でると、そのまま酒の入っている冷蔵庫を開け缶ビールやら酎ハイやらをカゴに入れていく。



「あ、私あれ!桃のやつがいい!」
「無理。お前飲み過ぎだから帰ったら水飲め、水」
「え〜、陣平のケチ」


やっぱり酒入ってたのか。てか酔っ払ってるといつもよりちょっと幼く見えて可愛い・・・。


あの男の人なんであの人に甘えられて平然としてられるんだ??


「じゃあアイス!暑いからアイス食べたい〜」
「この前零に買ってもらったやつまだあるだろ」
「あれはチョコだもん。今はキャラメルの気分なの〜」
「へいへい。さっさと取ってこい」



会話の途中に聞こえた名前。それはあの金髪イケメンのもので。


「諸伏何がいいって言ってたっけ、つまみ」
「ん〜?ヒロは甘い系以外って言ってた」
「適当にこの辺でいいか。あとなんかいる?」
「んーん、大丈夫」


点と点が少しずつ繋がっていくような感覚。もしかしなくてもあの男の人達って・・・、


レジ前にやって来た2人。酒やつまみの入ったカゴをレジ台に置くと、彼は俺の後ろに並ぶ煙草に視線を向けた。


「あ、萩原も煙草いるって言ってたよ」
「ん。18番と36番1個ずつお願いします」



18番ってあの長身イケメンがこの前買ってた煙草だよな。


彼女の腕を解くとポケットから財布を取り出し支払いを済ませる。



「あざっした」

小さく頭を下げ、酒が大量に入った袋を軽々持つ彼。そういやこの人らって絶対お礼言ってくれるよな。・・・・・・いい人だ。見た目ちょっとガラ悪いけど。



彼らがコンビニを出ていった後、ゴミを纏め裏にあるゴミ捨て場へと向かうとコンビニ脇にある灰皿の近くにさっきの2人がいて。夜の静けさも相まって自然と会話が聞こえてくる。



「煙草吸ってるから離れろって、煙いく」
「やーだー。家帰ったら萩原達いるから引っ付けないもん」
「アイツらいたって纏わりついてくるだろ、お前は」


スタンド灰皿の隣で煙草を吸う彼の腰に後ろから抱きつく彼女の姿に、俺の方が赤面してしまう。


火のついた煙草を口の端に咥え、呆れたみたいに笑った彼がそのまま彼女にもたれるように体重をかける。じゃれ合うようなやり取りがあまりにも絵になっていて、心臓がやけにうるさい。


他の男の人といたときとは決定的に違う。見てるこっちが照れくさくなるくらい甘ったるい雰囲気。


誰が見たってすぐに分かると思う。きっとあの2人は恋人同士で、あのイケメン達は2人の共通の友達なんだろう。


にしてもあの人達の顔面偏差値高くね?神様、ずるくね??


ゴミ捨て場にゴミ袋を投げ捨てながら、世の中の理不尽さに乾いた笑みが溢れた。




Fin


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