番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


※ モブ(男)目線のお話になります。苦手な方はご注意ください。ゆるっと楽しんでいただけると嬉しいです。


オフィス街から少し離れたマンションが多く立ち並ぶ場所にあるコンビニ。どこにでもある至って普通のコンビニだ。


俺がここで働くようになって数ヶ月。大学に入学すると同時に東京にでてきて、やっとこの生活にも少し慣れてきた。


コンビニってのは、本当に色んなお客さんがいると思う。そんな中でも頻繁に来る人達ってのは、こっちも自然と覚えてしまうものなわけで。




・・・・・・っ、今日も来た・・・!



まだ眠気の残る頭が一気に覚醒する。レジを挟んで正面に立つ1人の女の人。黒のスラックスに白シャツというシンプルな格好だけど、俺はもちろん後ろに並んでるスーツ姿のサラリーマンのおっさんも彼女に視線を奪われていて。



「あ、袋いらないです」


ミルクティーをレジに置きながら、財布を開く彼女の声にはっと意識を戻す。


一瞬だけ交わった視線。大きな瞳にかかる長い睫毛とか、真っ白な肌とか、淡く色付いた形のいい唇とか。この人の周りがまじでキラキラ輝いて見えてくるくらいには別格。平たく言えばマジで美人。地元でこんな美人見たことねぇし、こっちに来てからもこの人がダントツ優勝。



ほとんど毎日。平日の朝は、決まってこの時間にこのコンビニに来る彼女。買うのは決まって同じミルクティー。愛想がいいわけじゃないけど、美人の無表情はそれだけでも絵になる。


「ありがとうございます」


テープを貼ったミルクティーを彼女に渡すと、いつも携帯から視線を上げ小さく頭を下げお礼を言ってくれる。


コンビニで働いてたらそれだけのことですら、神様か!って思えてくるもんだ。



自動ドアが開き、出ていく彼女の後ろ姿をちらりと盗み見る。やっぱり後ろ姿すらスタイルいいし綺麗だし・・・。マジで周りが霞んですら見える。



社会人っぽいし多分歳上だよなぁ。いや、でもあの見た目なら大学生って言われても余裕で信じる。その後もレジ打ちをしながらそんなことを考えていて。彼女に会えた日は自然とテンションが上がるんだ。






急なシフト変更で普段は入ることのない遅番の勤務。やることはさほど変わらないけど、朝よりは心做しかゆったりと時間が流れているような気がする。



今週ずっと遅番だし、あの人に会えてねぇからそれだけが残念かも。


そんなことを考えながら品出しをしていると、自動ドアが開きひと組の男女がコンビニに入ってきた。



「買うもんって牛乳だけ?」
「うん。あ、あと何か甘いもの食べたい」


品出しをしていた手を止め、レジに向かう。そんな会話をしていた2人がレジ前にやって来て、「いらっしゃいませ」と顔を上げた瞬間、思わず「あ、」と声を上げそうになる。


どうにか寸のところで言葉を飲み込むと、もう一度目の前の2人に視線を向ける。



いつもの服装とは随分と雰囲気が違うけど、目の前にいるのはあのミルクティーの女の人。大きめのTシャツにハーフパンツ姿の彼女はどう見ても部屋着で、その隣にはすらりと背の高いこれまたどえらいイケメンがいて。




・・・・・・やっぱりこんな美人に彼氏がいないわけがねぇよな。


別に彼女とどうこうなりたいなんて思ってなかったし、そもそもなれるなんて1ミリも思ってなかった。(いや、0.01ミリくらいはなりたいって思ったかもだけど・・・。)


でも何となくこうして目の前で男と並んでいるのを見るとなんていうか・・・・・・やっぱりヘコむ。あぁ、俺の癒しが・・・人のモノ、か。



その時、男の方の携帯が鳴った。画面を確認した彼は、そのまま電話に出て話し始める。


レジ台に置かれた牛乳とチョコレート菓子のバーコードを読み取り、袋に商品を入れていると電話をしていた彼が彼女の肩を叩く。



「なまえ、俺の煙草も」
「ん。えーっと、18番お願いします」


短い会話。俺の後ろに並ぶ煙草の棚を見た彼女はすぐに目当ての銘柄を見つけ番号を口にする。


うわー、やっぱりなんか地味にこれ辛いかも。なんていうかガチで惚れてたとかではねぇけど、フラれた気分。てかなまえさんって言うんだ、名前。こんな状況なのに名前を知れたことが少しだけ嬉しいなって思っちまう。



「1057円になります」


袋詰めした商品を手渡しながら発した声はいつもより少しだけ覇気がないような気がするけど、そんな俺の心の内に彼女が気付くはずもなく。


彼女はまだ電話をしている彼のズボンの後ろポケットに入っていた財布を取ると、当たり前のようにそこからお札を取り出し自動精算機に入れる。


彼の方もそのやり取りが当たり前のように、何も言うことなく電話を続けていて。



2人からすればなんてことないやり取りなんだと思う。でもどうしたってそこにある付き合いの長さみたいなもんを感じてしまうから。



「俺の煙草どれかちゃんと覚えてんだ♪ 愛だねぇ」
「は?昔っから同じの吸ってるから覚えてるだけだし。キモいこと言わないでよ」
「ははっ、冗談だよ。そんな怒んなって」


じゃれ合いみたいなやり取りをしながらコンビニを出ていく2人の背中を見ながら、無意識にこぼれたため息ひとつ。


いや、いいんだ。あの人が幸せならそれでいい。てか美人のツンデレっていいよなぁ。


無表情な彼女しか見たことがなかったから。揶揄われて顔を顰める彼女が見れただけでも残りの仕事頑張れる気がする。うん、やっぱり美人は誰かのもんだったとしても目の保養に違いねぇな。

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